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皇太子殿下はご機嫌ななめ
第30話 「合成の誤謬」
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よかったよかった」

 晴れやかな表情です。
 爽やかな笑みといっても宜しい。
 皇帝陛下に対して、このような物言いをするとは、そちらの方にも驚きました。
 やはり親子だからでしょうか?
 皇帝陛下と皇太子殿下といえど、親子には違いありませんからね。

「まあ、ラインハルトには悪いけど、しばらく出向しててもらいましょう」

 アンネローゼ様もにこやかに仰います。
 最近、ラインハルト様とアンネローゼ様のお二人は、なにやらおかしな事になっているんです。
 妙にぶつかる事が多くて、困りもの。
 それにしてもアンネローゼ様の今日の格好は、淡い黄緑の、絹の紋織物のイブニング・ドレスです。細身のアンダースリーブの上に付いた、小さなパフ・スリーブ。
 袖口は、あざやかなオレンジ色のベルベットのリボン。前身頃は、張りのあるウエストバンドに向けてギャザーを寄せてる。
 裾の長いスカートには、細いウエストバンド。そして大きく開いた胸元の周囲をニードルポイント・レースの上に袖口と同じように、あざやかなオレンジ色のベルベットのリボンを重ねてあった。
 なんというか、ずいぶん気合の入った格好で……。
 ラインハルト様もそうですが、お洒落というものは、対抗するものなのでしょうか?

「さあ〜」

 マルガレータさんも首を捻っています。

「どうなっているのでしょうか?」
「ミューゼル姉妹、もとい姉弟はちょっとおかしい」

 お前が言うなと言いたいです。
 最近ちょっと、ロリに目覚めてね、と言ってた女とは思えない。

「おら知らね」

 と、嘯く皇太子殿下も、ちょっとおかしいと思います。
 ああ、オーベルシュタインさんに会いたいです。
 ケスラーさんがいない今、宰相府関係者では、あの方が一番まとものように思えますから……。

「解せぬ」

 リヒテンラーデ候がぼそりと呟きました。
 あんたもおかしいでしょうがっ!!
 と叫びたい。
 まったくどいつもこいつも。
 帝国は腐ってる。貴腐人だらけの帝国なんか、きらいだー。
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