第1部:学祭前
第1話『交錯』
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るんじゃないですか? ほとんど練習もせず、お茶飲んでばっかり、お菓子食べてばっかり。夏に合宿するかと思えば、悩むのは水着のことばかりだし……」
もともとこの軽音部、『放課後ティータイム』というバンド名で一応の活動はしているものの、お茶を飲んでお菓子を食べながら話すことがほとんど。新入生歓迎会と学祭前にしか真剣に練習はせず、それも、ノロノロダラダラとだべった挙句、忘れたころに練習を始めるという体たらくだ。
「まあまあ落ち着け」フォローに回ったのはドラマーの田井中律だ。唯やムギの同級生で、この軽音楽部の部長でもある。制服を着崩し、黄色いカチューシャのかかった茶色い頭に両手を添えて、悠長に言っている。「唯には絶対音感があるし、澪のベースは定評があるし。あたしのドラムだって走り気味じゃなくなってきただろ? いつものように自然体、自然体。絶対上手くいくって!」
「そうそう、なんとかなるでしょ」
唯もそう言って、のほほんとクッキーをかじる。
「はいはい……」
げんなりしているのは律の幼馴染、秋山澪。自分達が他校で演奏することが決まってから、不安と不満でずっとこの調子。黒い吊り目が完全に死んでいる。「そういえばさあ、なんでうちらが榊野学園と合併することになっているんだ?」
「実はね」声を開いたのはムギ。「私達の学校は『勤勉』を理念に知育よりも徳育を重視していますよね」
「うちらは全然勤勉じゃねえだろ」
と、澪。
「まあまあ、榊野はこの地域ではちょっと名の知れた進学校で、指数対数をすでに学んでいて、それを『ハノイの塔』に応用させているという話なんですよ。榊野と桜ヶ丘を合併させて、『知育』と『徳育』を融合させた高校を作るつもりらしいです。
男という水が入るのも嫌ですが、榊野の高度な知育は一度知りたいぐらいですよ、私は」
ムギはどちらかといえば同性愛が好きで、男が入り込むのは嫌っているようだが、高い知識を手に入れたがる向上心はあるらしい。
「あたしはやだなあ」
と、梓。
「あら梓ちゃん、あなたが一番外部ライブを楽しみにしていたじゃない。自分たちの実力をみんなにも見せて、さらに向上させていきたいって」
「そうですけど、榊野は偏差値高いけど風紀が良くないって聞いたんです。知育重視のあまり生徒の心の教育対策は立ててないみたいで。
お酒は隠れて飲むし、不純異性行為だって頻発してるという話ですよ。
むしろ高校で『チェリー』を卒業しないと恥ずかしいという裏ルールもあるらしいし。雰囲気の悪いところには行きたくない」
「私達は女子高ですけど、榊野は共学だからねえ。多少の羽目を外すことはあるでしょう」ムギがフォローとも皮肉ともつかぬ発言をする。「でもまあ、私達もこの際、異性との付き合い方を学んでもいい気がするわね。ひょっとしたら頭のいい彼氏ができ
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