第1部:学祭前
第1話『交錯』
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「きゃあ!」
「うあ!」
何かにつまずき、平沢唯と伊藤誠は重なって倒れ込む。
誠は強く背を打った気がするが、クッションみたいなものがあって痛くはない。
「つーっ……え……?」
気がつくと誠は、白いベッド(本来は保健室にあるもの)の上で、唯に肩を掴まれ組み敷かれている。
薄暗い部屋。そこに男女が二人きり。
窓は黒いカーテンがおろされており、女物ヘアスプレーの残り香がまだ部屋に匂っている。
ベッドのシーツには、血の跡が乾いて黒く、でもはっきりと。
「おい、やべえよ」
肩をふりほどこうと思って、誠は急にゾクリとした。
見交わした唯の顔は紅潮し、目は潤んでいる。
何を求めているかはすぐに分かった。
雰囲気に流されそうな自分を必死に押さえ付け、深呼吸して、唯に、
「や、やめようよ……」
「一回だけでいいから……」
「でも……」
「あと少しなんだよ!マコちゃんと恋人でいられるのは!!」
唯が普段考えられないほどの大声を出す。
「トーンダウン、トーンダウン。ばれちまうよ、唯ちゃん」
誠が必死になだめた。
「ごめん……。でも、あたしの気持ちもわかって……」唯が潤んだ瞳で続ける。「あと少しで、全部諦めなくちゃいけないんだよ、マコちゃんのこと。
せめて最後にマコちゃんが……マコちゃんの思い出が欲しい。
あたしじゃ、西園寺さんや桂さんの足元にも及ばないかもしれないけど、後悔したくないの……。
お願いだから……」
「唯ちゃん……」
誠は、自分の頬どころか身体全体が火照っていることに今気がついた。
そして、誠に体を預けている唯も同じように熱くなっていることに。
長い長い沈黙の後、誠の顔に唯の顔が近づいて……。
第1話 交錯
事の起こりは少し前。
「もうすぐかあ……」
桜ヶ丘高校の放課後、音楽室で紅茶を飲みながら平沢唯は呟く。
軽音楽部の部室で、教室と変わらない木製の机がくっついているが、漫画やらお菓子やら洋食器やらが詰め込まれ、喫茶店のような様相を呈している。
「榊野学祭のライブまで後少し、放課後ティータイム初めての外部演奏ねえ」
部員の一人、ムギこと琴吹紬は、腰までかかる金髪を振りながらお茶を配っていく。
日本では少子化がすすんでおり、私立高校の合併や廃校がはじまっているが、空想の世界もそうである。平沢唯達が通う桜ヶ丘高校と、伊藤誠達が通う榊野学園もまた、合併する話が進められていた。
その前段階として、一方の生徒を他方の学園祭に派遣し、お互いの部活動の紹介と生徒の交流をすることになっていた。
「ですねえ、じゃないですよっ!」ムギと唯の後輩、中野梓は不満げだ。黒いツインテールが不満を表している。「そもそも私たちが他校の学祭で演奏すること自体、無理があ
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