第十二章
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第十二章
「きつい入社テストでしたよ」
本郷は苦笑いを浮かべていた。
「けれどまあおかげで食べ物にありつくことはできるようになりました。大学を出てからどうしようかな、って思っていたところでしたから」
「就職だったんですか」
「そうですよ」
本郷は答えた。
「たまたまふらりと立ち寄ったんですが。まあこれも運命だったのでしょう」
「運命だったのですか」
「私もそう思いますね」
役も言った。
「彼が私のところに来たのは運命だったんですよ。丁度探偵事務所も一人で色々と人手が足りなくなっていましたし」
「そこに俺が入って来て」
「それで二人になったんですよ。けれどそれから社員は増えていません」
「零細企業ですね」
警官の一人がそれを聞いて笑う。
「まあそうですね。それもかなり危ない」
「きつい、汚い、危険」
「古い言葉ですね。けれど確かにそうですね」
「化け物が相手ですからね。何時死ぬかわかりませんよ」
「ははは」
実際は笑える話ではなかったが彼等は談笑していた。それは彼等が今実際に死と向かい合っているからだ。そうした中でも彼等はユーモアを忘れてはいなかった。こうした時だからこそ笑いが必要であった。そして彼等はその中で自らを種にして笑っていたのであった。心が強くなければできないことであった。
彼等は暫く話をしていた。そこに七尾刑事がやって来た。
「あ、もう来られているんですか」
「ええ」
二人は刑事にも挨拶をした。
「早いうちにお邪魔したいと思いましてね」
「そうでしたか」
刑事はそれを聞いて頷いた。そして自分でコーヒーを入れた後で席に着いた。それから二人に対して話をはじめた。
「昨日のことですが」
「はい」
二人はそれに応えた。
「あの男は言っていましたね」
アルノルトについて言及する。
「自分がユダの末裔だと。聖書に出て来るユダのことですよね」
「はい」
役がそれに答えた。
「それは昨日本人が言っていましたね」
「はい」
今度は刑事が頷いた。
「ユダに子孫がいたかどうかはともかくそれが吸血鬼になるとは」
「ユダはキリスト教の世界では最大の悪人の一人ですからね」
役はそう説明をした。
「ですからああした力を身に着けるようになったのです。その子孫として」
「呪いみたいなものでしょうか」
「少し違うかも知れません」
だが本郷はそれに対しては少し懐疑的であった。
「あれは人々がそうさせたのかも知れません」
「人々が」
「ええ」
また答えた。
「ユダはね。本当は悪人ではなかったのですよ」
「はあ」
「人には過ちというものがあります。誰だってそれを犯してしまいますね」
「はい」
それはもう言うまでもないことであった。刑事はその言葉
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