第八章
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第八章
「悪魔ではないのですか」
「何故ならですね」
彼は言った。
「悪魔にはちゃんと顔がありますよね」
「ええ、まあ」
これも警視正にとっては常識のことだった。悪魔には顔がある、そのことも頭の中にある。
「そうですよね」
「それがないんですよ」
本郷は言った。
「顔がないんですよ」
「顔がない!?」
「はい。頭はありますが顔はない」
本郷はまた警視正に説明した。
「顔がなくて。目も鼻も口も耳もないんですよ」
「何ですか、それは」
「日本で言うならのっぺらぼうです」
役も彼に告げた。
「本郷君、つまりそういうことだな」
「はい、その通りです」
本郷は彼の言葉に対しても頷いたのだった。
「今式神を上げているのはそれです。黒い得体の知れない奴です」
「何ですか、それは」
警視正には全く以って正体不明の相手だった。
「顔がないなんて。それは」
「ナイトゴーントだな」
ここで役が言った。
「ナイトゴーントだ、それは」
「ナイトゴーント!?」
本郷はその聞き慣れない名前を聞いて目を顰めさせた。役に顔を向けての言葉だ。
「何ですか、それは」
「本来は我々の世界とも冥界とも魔界とも違う世界にいる存在だ」
「違う世界にですか」
「勿論天界でもない」
つまり彼等が知るどの世界にもいないというのだ。
「精霊界にもな。全く異質の世界にいる存在だ」
「そんな世界があるんですか」
「異形の神々・・・・・・いや神々と言っていものだろうか」
役はその整った顔を顰めさせていた。彼にとってはかなり珍しい表情になっていた。
「あれは」
「神々ですか?」
「そう言っていいかどうかもわからない存在達だ」
言葉が複数称になっていた。
「彼等はな」
「何か知らないですけれどとんでもない存在なんですね」
「悪魔は言うならば違う神だ」
役は言った。
「これはキリスト教世界の方には理解できないとは思いますが」
「ええ」
警視正は今の言葉は自分に向けたものであるとわかっていたので役に対して頷いた。
「正義は複数あるものでして」
「日本人独特の考え方ですね」
「そうです。ですから神にも正義があれば悪魔にも正義があります」
これこそまさに日本人の考えだった。日本人にとっては悪魔も正義なのだ。ミルトンの失楽園も日本人が読めば悪魔もまた正義であるのだ。
「しかし彼等は違います」
「どう違うのですか?」
「ただ。本能だけの破壊衝動」
役は言った。
「彼等にあるのはそれだけです」
「それだけなのですか」
「何かを破壊し殺したい」
役の言葉はこうであった。
「それだけです。彼等にあるものは」
「何か極めて原始的な存在に聞こえますが」
警視正も眉を顰めさせ
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