第百四十話 妻としてその十二
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「しかし明日の朝はまだ暗いうちに皆起こせ、そしてすぐにじゃ」
「飯をですか」
「それをですな」
「干し飯を食わせ」
朝はそれをだというのだ。
「それから日の出と共に攻めさせよ」
「日の出と共にですか」
「攻めるのですか」
「そうじゃ、そうするぞ」
信長はよく朝早くに戦をはじめる、それは今もだった。
「わかったな」
「はい、では」
「今のうちに伝えて」
小姓達も応える、そうしてだった。
彼等は明日の朝早くに備えて命令を出していた、このこともすぐに伝わった。
兵達はそのことを聞いてから寝た、信長もだった。
すぐに床に入る、そこでも諸将のことも伝えた。
「皆も今のうちに寝る様に伝えよ、酒は明日じゃ」
「明日ですか」
「勝った時にですか」
「思う存分飲めと伝えよ」
まさにその時だというのだ。
「わかったな」
「はい、では」
「その時に」
「権六なぞは特に酒好きだからのう」
信長は寝る前に具足を脱いだ姿で笑って言った。
「あ奴は一言言っておけば聞いてくれる、だからな」
「では権六殿にもそうお伝えしておきます」
「その様に」
「無論他の者にもな、十兵衛達にもじゃ」
彼等幕臣達にもだというのだ、とはいっても織田家から出ている禄は幕府のそれよりも遥かに多くなっている。
「伝えておく様にな」
「はい、では」
「そのことも」
こう話してだった、織田家の面々は早く寝た、最低限の物見だけを置いて皆ゆっくりと休んだ。
対する浅井家は警戒しようとしていた、だが長政はその彼等に言うのだった。
「よい、休んでおれ」
「宜しいのですか」
「織田家の夜襲は」
「夜襲は不利な時に仕掛けてくるものじゃ」
その時にだというのだ、敵の数が多い時に仕掛けるものは河越夜戦を見てもわかることだった。
「十倍もあって仕掛けては来ぬわ」
「では夜襲はですか」
「ありませぬか」
「それはない」
決してだというのだ、では何があるかというと。
「朝じゃ」
「朝ですか」
「織田家は朝に来ますか」
「義兄上は早く起きられる方じゃ」
あまり寝ない方だ、朝早く攻めるのもその早起きからでもあるのだ。
「だからじゃ」
「朝ですか」
「その時に」
「うむ、来られる」
間違いなくだというのだ。
「だから我等は今はじゃ」
「寝るべきですか」
「それでは」
「見張りだけ置いて寝よ」
夜襲はないと見ていても警戒は怠らなかった。
「わかったな」
「はい、では」
「今は」
長政の言葉に応えて彼等もすぐに寝た、それを見た徳川家と朝倉家の者達もだ。姉川は今は静かに夜を過ごした。だがそれは多くの者にとっては最後の眠りだった。
第百四十話 完
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