第百四十話 妻としてその十一
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「しかしのう、殿は気前がよいのう」
「そうじゃな、我等にも白い飯を食わせてくれるわ」
「しかも褒美も弾んでくれる」
「気前のよい方じゃ」
「全くじゃ」
彼等は信長を気前がよいと思っていた、それで信長の世間の評判については一笑に伏してあっさりと一蹴してしまった。
「殿の何処がケチなのじゃ」
「うむ、そんなことはないわ」
「常に褒美は弾んでくれる」
「そしてこうして美味い飯を食わせてくれる」
「気前のいい方じゃな」
「全くじゃ」
これが彼等の見た信長だった、そしてだった。
彼等はだ、それぞれのおかずも口に入れて言った。
「おかずまでつけてくれるしな」
「全くじゃ、干し魚もあるしな」
「しかも味噌や梅まで出してくれる」
「全くじゃ、よいことじゃ」
「殿は奮発してくれるわ」
こう話しながら食っていく、その頃にはもう日が落ちてきていた。
そしてだ、こうも話した。
「酒はないがな」
「酒は戦に勝ってからじゃな」
「その時にふんだんに出るぞ」
「そして好きなだけ飲めるぞ」
酒のことは戦の後となった。
「殿は酒は駄目だがな」
「あの方は酒だけは飲めぬそうじゃな」
「それでいつも茶とか」
「甘いものや餅を食されるとか」
「意外じゃな」
「全くじゃ」
信長は一見すると酒を好む様に見える、陽気で一旦激すると激しいその気性から言うのだ。
だが実はだ、信長はというと。
「酒は全然飲まれぬそうじゃな」
「全くの下戸だとか」
「酒を少し飲むと倒れられるとか」
「そうした方じゃからな」
そこまで酒が飲めないのだ、それでなのだ。
「甘いものじゃな」
「それに茶じゃな」
「餅もお好きだそうだしな」
「それでじゃな」
信長はいつも茶を飲み甘いものを好んでいる、それは全て酒が飲めないせいだ。
それでだ、彼等も言うのだった。
「我等だけ飲むことになるがのう」
「それはちと悪いのう」
「まあ出されれば飲むがな」
「酒は美味いからな」
それでも飲むことは飲むのだった、そうした話をして。
彼等は今はたらふく食った、そして満足した面持ちで言うことは。
「では寝るか」
「うむ、朝も早いらしいからな」
「ここは寝るか」
「ゆっくりとな」
皆具足を脱いでそのうえで寝た、それは信長もだった。
彼は早いうちに寝た、その時に傍にいる小姓達に言った。
「早くにじゃ」
「起きられてですか」
「そのうえで」
「うむ、仕掛けるぞ」
こう彼等に告げるのだ。
「その時にな」
「そしてそのうえで、ですか」
「朝に」
「もう皆たらふく食ったと思うがな」
晩飯のことをあらためて問う、それは大丈夫かというのだ。
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