第百四十話 妻としてその九
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「朝倉家では勝てぬ」
「こうして我等の誘いに何の疑いもなく乗っていますし」
「それでは」
高山と清秀も言う、そうしてだった。
織田家はあえて朝倉家の軍勢とつかず離れずの距離で退いていく、長政はその彼等を見て確信した。
「やはりな」
「はい、そうですな」
「織田家の軍勢は我等を誘い出しています」
「それが何処かはまだはっきりしませぬが」
「間違いありませぬな」
「うむ、こうなっては仕方がない」
長政は覚悟を決めた、そして言うことは。
「戦になったその時にじゃ」
「右大臣殿をですな」
「何としても」
「その時は続け」
長政は強い声で周りに告げた。
「一万、一丸となって進めばじゃ」
「かなりの力ですな」
「侮れぬまでの」
「どれだけ多くの兵がいても将は一人じゃ」
信長、彼だけだというのだ。
「義兄上を何としてもな」
「そこまで迫ってですな」
「その御首を」
「まさにそれしかない」
浅井家が勝つにはというのだ。
「大軍相手にはな」
「では、ですな」
「まずは何とか朝倉殿とはぐれないようにしましょう」
ここではぐれれば織田徳川の大軍がまず朝倉家の軍勢を潰すのは目に見えていた、そしてそれからもだ。
だから浅井としては離れる訳にはいかなかった、それでだった。
両軍は遂に姉川の北に来た、そして織田徳川の軍勢は既に姉川を渡ってその南にいた。
両軍は既に布陣を整えていた、その布陣はというと。
信長は本陣を高い龍ヶ鼻に置いていた、そして一万の軍勢を後詰として横山城に置いていた。
そのうえでだ、姉川の北に布陣している浅井朝倉の軍勢を見つつ言った。
「見よ、我等の相手は浅井じゃな」
「はい、装い通りですな」
「やはり浅井殿が来られますか」
織田家の青い軍勢と川を挟んで対峙していたのは浅井家の紺色の軍勢だった、彼等は夕暮れの今になってそこに現れたのだ。
浅井の軍勢は彼等の前にいる、その彼等を見て言うのだった。
「やはりそうなりますか」
「ここは」
「数は一万ですな」
その数も見られる。
「我等十万に対して」
「皆死兵じゃ」
信長は浅井の兵達をこう評した。
「一丸となってわしのところに来るわ」
「どんな陣を敷いてもですか」
「そうしてきますか」
「うむ」
間違いなくだ、そうしてくるというのだ。
「そうしてくるわ」
「では殿」
ここで言ったのは黒田だった。
「やはりあの陣を敷きましょう」
「あの陣じゃな」
「あれならば幾ら破られても何ともありませぬ」
「そうじゃな、御主の言う陣ならな」
「陣は破られてそれで終わりではありませぬ」
まだあるというのだ、そこから。
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