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夜の影
第三章
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第三章

「オランダははじめてですけれどね」
「オランダはですか」
「はい、はじめてです」
 役が彼に述べる。
「はじめてです。旅行では一度来たことがありますが」
「左様ですか」
「街を見るのも楽しみにしています」
 今の彼の言葉はお世辞ではなかった。
「そうしたこともあり早速」
「まだ昼ですが宜しいですか?」
 事件はいつも夜に起こっている。だからこう二人に問うたのである。
「それでも」
「昼の街をまず見たいのです」
 役は微かに笑って今の警部の言葉に応えた。
「昼に見て。それから夜です」
「それからですか」
「確かに昼の街と夜の街は別のものです」
 少し奇妙な言葉であった。
「昼に見せている顔と夜の顔はまた違うものです」
「それであえて昼にですか」
「違うものでありますが同じものでもあります」
 また奇妙な言葉を述べた役だった。
「そう。鏡と同じです」
「鏡と」
「そうです。違う顔をしていてもそこにあるものは同じです」
 こう言うのだった。
「ですからまずはもう一つの顔を見ます」
「昼の顔を」
「そうです。ですからまずは昼の街を見ます」
 彼は言葉を続ける。
「それからです。夜に入るのは」
「そうですか。それではまずは昼の街を」
「はい」
 こうして三人はまずは昼のユトレヒトに出た。まず街の北側に出るとその広場に黒い兎の像があった。本郷はその兎の像を見て言うのだった。
「あれっ、これって」
「ミッフィーだな」
「そうですよね、ミッフィーですよ」
 役に対しても言う。広場の中央にその黒い兎の像が可愛らしく立っていたのだ。ぬいぐるみでの姿そのままであった。
「これって」
「ナインチェがどうかしましたか?」
 警視正はここで二人に対して言ってきた。
「この街のシンボルですが」
「ナインチェ!?」
「それがこの兎の名前ですが」
 こう二人に述べるのだった。
「それが何か」
「ミッフィーじゃないんですか」
「ミッフィー!?」
 警視正はその名前を聞いても首を捻るだけであった。
「何ですか、それは」
「あれ、この兎じゃないんですか?」
「いえ、これはナインチェです」
 警視正はあくまでこう言うのだった。
「この街で生まれたものですから。わからない筈がありません」
「ミッフィーじゃなくて」
 どうしてもわからないといった顔の本郷だった。その顔で警視正に対してまた言った。
「そのナインチェですか」
「そうですが」
「これはミッフィーでもありナインチェでもある」
 ここで役が本郷に対して話してきた。
「ただそれだけだ」
「?というと」
「日本ではミッフィーと呼ばれている」
 彼はまた話した。
「そしてこのオランダではだ。ナインチェと呼ばれて
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