第三十九話 赤かったから吃驚したよ
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司令長官は本当に羨ましそうに侯爵夫人を見ている。そして侯爵夫人は明らかに怯えていた。
「クリスティーネ、下がりなさい」
「お母様」
ブラウンシュバイク公爵夫人の声と侯爵令嬢の声にリッテンハイム侯爵夫人が一歩下がった。そしておずおずと元の場所に後ずさっていく。司令長官はその様子を黙って見ていた。そして口元に手をやり血を拭う。その血の付いた手を見てクスクス笑い出した。皆が驚く中ヴァレンシュタイン司令長官が“赤いな、まだ赤かったか”と楽しそうに呟いた。心臓が止まるかと思うほどぎょっとした、一体自分の血が何色だと思っていたのだろう。
「侯爵夫人、これからは母娘(おやこ)で大人しくお暮し為される事です。力を失った事を受け入れなさい。憤懣を漏らせばそのこと自体が貴女達母娘(おやこ)に危険をもたらすという事を理解するのです」
「……」
司令長官の声が司令室に流れた。リッテンハイム侯爵夫人も不満そうな表情は見せているが黙って聞いている。
「ベーネミュンデ侯爵夫人が何故死ななければならなかったか……。先帝陛下の寵を失ったにもかかわらず、それを認められずに不満を持ち続けた、自分こそが寵を受けるべきだと。そしてその不満を利用されて死んだ……。貴女が死ぬ時はフロイラインも道連れになる、その事を良く覚えておいた方が良いでしょう」
リッテンハイム侯爵夫人が悔しそうに唇を噛み締めた。でも司令長官の言う通りだと思う。リッテンハイム侯爵夫人は力を失った。力を失ったものが不満を口にする事ぐらい危険な事は無い。
「アンスバッハ准将、シュトライト准将」
「はっ」
司令長官が声をかけるとブラウンシュバイク公爵夫人の傍に居た二人の軍人が一歩前に出た。多分この二人が司令長官の交渉相手だったのだろう。
「ブラウンシュバイク公の御遺体はどちらに?」
「霊安室にて保存しております」
黒髪の軍人が答えるとブラウンシュバイク公爵夫人とその令嬢が身体を硬くするのが見えた。
「メックリンガー総参謀長、御遺体を確認後ブリュンヒルトに移送してください。先帝陛下の女婿であられた方です、丁重に」
「はっ」
「そちらの方々もブリュンヒルトに同乗してください」
司令長官はブラウンシュバイク公爵夫人達に言うと私に彼女達の部屋を用意するようにと命じた。
これで終わりかな、後はオーディンに戻るだけだと思った時だった。司令長官が
「アンスバッハ准将、シュトライト准将。例の件はどうなりました?」
と問い掛けた。例の件? 他にも何か有るのだろうか、疑問に思っていると
「閣下の御推察の通りでした」
と黒髪の士官が答えた。
「証拠は?」
「シュトライト准将」
司令長官の問いかけに黒髪の士官が隣に居た士官に声をかける。ようやく分かった、黒髪の士官がアンスバッハ准将、も
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