Mission
Mission10 ヘカトンベ
(6) クランスピア社正面玄関〜同社社長室
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は密かに笑んだ。
「そのためにはお前たち二人のどちらか、あるいは両方の協力が必要だ。私の命令に従ってもらわねばならないが、できるか?」
「……ワタシには『橋』を架ける場面でやらなきゃいけないことがある。地上に残らなくちゃいけない。だから、エルだけならあげてもいい。条件付きになるけど」
「聞こう」
「一つ。『カナンの地』関係の騒動が終わっても、ルドガーをクランスピア社で継続雇用する。二つ。『カナンの地』に向かうまでの期間はエル・メル・マータの衣食住の一切を保障し、精神を脅かす待遇をしない。これらを約束してくれるなら、『鍵』としてのエルは社長さんの好きにしていい」
ビズリーは考え込むようにあごひげを撫でる。
「ユリウスの名が条件にないようだがいいのかね。父親だろう」
「いい」
即答した。一瞬で胸に渦巻いたあらゆるものを圧殺して。
「ルドガーを生かすのが、とーさまがワタシをココに送り込んだ最大の動機だから。その中にエルは含まれるけど、とーさま自身は含まれていない。ワタシはとーさまの言いつけ通りに行動する」
「20年近く経ってもあれは『優しい兄さん』を続けていたわけか。――いいだろう。取引成立だ」
「ありがとう、ございます」
ユティはビズリーに深々と頭を下げた。
繋いだ手の先、エルを見下ろす。
不安と怯えでいっぱいで、でもやめるとは決して言わない年下の従姉。
しゃがみ込み、エルを見上げる。翠の瞳がユティを映し、戸惑いに染まる。
「ワタシね、ちっちゃい頃、エル姉に憧れてた」
「エルに?」
「ん。外見だって中身だって、アナタみたいになりたくてこうしたんだよ。その憧れごと、ワタシは壊してしまったけど」
「……でも、ユティの『エル』はエルじゃないでしょ」
「うん。ワタシの世界の『エル』。この世界のエルとは違う人。でもね」
ビズリーには聴こえないよう小声で、エルの耳元で囁く。
「いつだってエルは強くて凛々しかった。ルドガーが迎えに行くまでの間、エルならダイジョウブって信じちゃうくらい、アナタはすごかったんだよ」
「!!」
エルがユティの首っ玉に飛びついた。ユティはエルを受け止めてぎゅーっとハグした。
「独りぼっち、コワイと思う。サビシイと思う。でもエルはガマンできる。だからルドガーもちゃんと迎えに行かせる。エルとルドガーの『約束』、どうでもいいなんて、絶対ないんだから」
「うん…!」
エルが何度も大きく肯いた感触が、腕の中に伝わった。
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