壱:始まり
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「…………っ」
対峙している少女の一回りも巨大な獣人の爪をギリギリ掠らないところで見切り、体をそらせることで避けその手に持っている大太刀を斬り上げた。さらにその手に持つ刀が藍白く光り一瞬のうちに一閃、カチンと納刀の音と同時に獣人はポリゴンとなり爆散する。
「………終わり…ですか…」
いつ訪れるか解らない自分の終わりもこの獣人のように儚く散るものなのか、と思うとなんともいえない気持ちになる。死体も遺品も何も残らない完全な消滅。
「…まぁ、そのほうがいいですけどね……」
自嘲気味に笑うと同時に軽やかな音と一緒にメールが来たことを知らせるアイコンが右端で光る。それを見るため索敵をかけ辺りを見渡し敵がいないことを確認してからメニューを操作し、確認する。内容を一瞥し無意識に返事を声にしてから長い髪をなびかせながら歩きだした。
―――――
しばらく歩くと頭に趣味のいいとは言えないバンダナをつけた野武士のような男性プレイヤーが立っていた。腰にぶら下げている刀は少女のものの半分くらいしかないが、それでもその実力ははるかに自分を凌いでいるだろう、と少女は心の片隅でずっと思っている。
「ぅおーい!!セリシールー!!」
「……ちゃんと聞こえてますよ、師匠」
大声を出して名前を叫ぶプレイヤーに呆れながら少し駆け足で近づいていく。男性の声に気付いたのかその周りで駄弁っていた4、5人の男性プレイヤーたちも少女――セリシール――へとぶんぶんと手を振ってくる。
「なんだ、遅かったじゃないかよ」
「どうせモンスターに苦戦してたんだろ?」
ヘラヘラと笑いながら鉢巻をしたプレイヤーが小柄なセリシールの頭に手を置いてくるのをうざったそうにその手を払いのけ口を開く。
「……メッセ来てたときには倒してましたよ。そっちもノルマクリアしたんですか?」
「あたぼうよ!……っても安全エリアまでだけどな…」
「……えー…」
「ほら、お前らー。こんなところで話しとらずにとっとと街戻るぞー」
「わぁったよ、クライン」
「話なんざ、ホームでも出来るだろ。そこでゆっくりすりゃあいいさ」
どうやら予想よりも進んでいなかったらしい。ジト目になって反論しようとするがこのグループのリーダーである師匠ことクラインの声に止められその場を後にする。
やっぱり、この集団―ギルド『風林火山』―は私にとって安らぎをくれる数少ない場所だ。二年前まで、こんな場所があることも、自分がそこにいていいことも、全部想像できなかった。
「………ありがとう、です…」
「あん?なんか言ったか?」
「…なんでもないですよ、師匠」
そういって最前線であるこの74層の主住区へ歩いていった。
――――――
二年前の11月某日あの
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