第十二章
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第十二章
次の日二人は闘いの後で警視正に話したことを今も話していた。話しながら運河を進む船に乗っていた。観光の為の遊覧船である。警視正はその中で二人に対して問うていた。
「では御二人が共に闘わないと勝てませんか」
「はい」
役が今の彼の言葉に頷く。
「その通りです。一人では足止め程度しかできません」
「そうですか。そこまで手強いのですか」
「ですが」
役はここで言葉を濁らせる。船は橋の下を通る。その時影が船を横切った。
その影は役の顔も一瞬だが覆った。しかしその影が通り過ぎたその時に彼はまた口を開いて言うのだった。
「逆を言えば二人でなら勝てます」
「そうですね。そうなりますね」
警視正もこのことはわかった。
「言い換えれば。ですが」
「わかっています」
警視正の言葉に対して確かな物腰で頷いての言葉だ。
「私にはあの魔物の目が見せません」
「そうですね。それは」
「それが問題です」
本郷には見えるが役に見えない、問題はそれであった。
「姿が見えれば。相手になるのですが」
「耳ではわかりませんが」
「特別な相手でして」
今度は本郷が警視正に対して言ってきた。
「音は全然立てないんですよ、これが」
「全くですか」
「はい、全くです」
このことを話すのだった。
「全く。何一つとしてです」
「では香りは」
「それもです」
それもないというのだった。
「それで滅多なことでは見えませんし」
「事実上の透明人間というわけですね」
「俺が見えてなければどうにもならないところでした」
本郷は深刻な声で語るのだった。
「打つ手なしで。そもそも相手が何かもわかりませんでしたね」
「確かに」
警視正もそれはよくわかった。
「闘い以前になっていましたか」
「今程自分の目のよさに感謝したことはありませんよ」
普段は明るく言うところだがこの時ばかりは違っていた。どうにも暗い声でった。
「本当にね」
「そうですね。やはりそうなりますね」
「ええ。闇の中に隠れていて見えないのですから」
このことをあえて言う。
「どうするべきですかね、本当に」
「さて」
本郷も警視正もそれぞれ腕を組みだしその顔で考えはじめた。しかし答えが出る筈もない。こうして考え込んでいるところで運河のほとりにいる烏に気付いたのだった。
「烏ですね」
「忌々しいですね」
警視正は烏の姿を認めると眉を顰めさせてしまった。
「全く以って」
「烏はお嫌いですか」
「はい」
言葉に感情がそのまま出ていた。
「西洋では烏は死神の使いとされていまして」
「そういえば使い魔にも多いですね」
「魔女や魔術師の」
役の言葉にも付け加えるのだった。
「よくなります。猫や蝙蝠等と一緒で」
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