約束
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桜が満開で入校し、桜が芽吹くころに卒業する。
二十歳を超えた青年たちは、候補生から少尉へと任官されて、各地に転戦する。
それぞれの課程に応じた勤務先に向かう事になる。
卒業証書とともに辞令を手にした卒業生は、転地の迎えが来るまでの間に静かに待つ事になる。 これからしばらく会わなくなる同期と言葉を交わし、あるいは名残惜しむ後輩たちと戯れる。
この日ばかりは鬼の教官たちも目に涙を浮かべ、今後の彼らの幸せを祈るのだった。
定年まで生きられるようにと。
さらに、この年はシトレ学校長の栄転も決定していた。
中将から大将に昇任し、第8艦隊の司令長官が命じられている。
厳しくも暖かくもあった学校長の転任に、教官たちの寂しさも大きい。
「清々しますな」
「何か、君が口にすると嫌味に聞こえるのだが」
「そんなことありませんよ。期待に燃える若者たちの姿は何度見てもいいですな」
「否定はしないが、最後くらいは暖かい言葉をかけてもらいたいもんだ」
「私に何を期待するのです。学校長こそよろしいのですか――ヤン・ウェンリーは卒業しますよ」
「先ほど声をかけてきたところだ」
シトレは小さく笑う。
一陣の春風に、制帽が飛びそうになって、頭を押さえた。
良い陽気だ。
卒業するにしても、入校するにしても。
その学生を、来年からは見れない事は少し残念なことであった。
「第8艦隊――イゼルローンですか」
と、唐突にスレイヤーが言葉を口にした。
その意味を理解して、シトレは細めていた目を開くと、頷いた。
難攻不落の代名詞となっている、帝国軍の要塞。
あの要塞が完成してより、同盟軍は帝国領に侵攻することも出来なくなり、現在は帝国から侵攻する艦隊を撃退するか、こちらが要塞を攻めるかの二択になっている。
今まで何十年もそうであり、それはイゼルローン要塞が攻略されるまで変わらない。
「最初は訓練からだと思うがね。いずれはそうなるだろう」
「案はあるのですか」
「二つ三つは考えているがね。どれもすぐに実行できるわけでもない。こればっかりは私の一存で決められる話でもないしな」
「イゼルローンについて、面白い話をしていた人間がいます」
んとシトレは瞬きをした。
覗き込むような視線に、相変わらず表情を変えることなく、片物の教頭は前を見ている。
聞いた言葉を思い出すように、スレイヤーは続けた。
「難攻不落のイゼルローンが出来てから、我が軍はそれを攻略する事に専念しています。だが、損害に見合う価値はあるのだろうかと」
「何とも耳に痛い言葉だ。だが、攻略すれば少なくとも帝国軍は侵攻出来なくなるだろう」
「ええ。ですが、距離の防壁は今度は同盟に襲いかかることになる
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