約束
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ら同盟の命運を引き伸ばしたに過ぎない。
アレスの苦笑混じりの呟きに、ワイドボーンはポケットに手を入れたままで首を振った。
「ヤンでは無理だな」
「この間の戦いを見ても、そう思いますか」
「いや、奴の実力は群を抜いている。だが、それだけでは駄目なのだ」
再び首を振る姿に、アレスはワイドボーンを見る。
真っ直ぐな視線が、アレスを捉えていた。
「いや……おそらくは、リン・パオも、ブルース・アッシュビーも。あるいはまだ見ぬ優秀な奴がいたところで、おそらく戦争を終わらせる事はできない」
「それでなぜ俺ならば出来ると」
「お前は帝国を憎んでいないだろう?」
それははっきりとした断言であった。
「確かにヤンは優秀だ。それは認めよう――だが、奴も、俺も、そして多くの同盟市民は帝国を憎んでいる。出てくる言葉は勝つか負けるかだけだ」
断定の口調に、アレスは笑おうとして笑えなかった。
真っ直ぐなワイドボーンの言葉が、笑って冗談にすることを拒否している。
確かにと、アレスは思う。
元より生まれ変わったアレスは、同盟に生まれ、教育を受けてきた。
だが、元々の記憶が――帝国を憎むことを拒んでいる。
それは物語への憧れであるのか。
そう思えば、ワイドボーンの言葉に否定することも出来ず、ただ黙って頭をかいた。
思いついた否定の言葉は、声にする前に消えている。
だから。
「無理ですね」
静かにアレスは口にした。
口にすれば、残るのは沈黙だ。
ワイドボーンの口からは、否定も肯定も聞こえない。
ただ、アレスの言葉を待っている。
これならば、よほど激高してくれた方が楽だったと苦笑する。
形だけの約束ならば、簡単にできただろう。
だが、ワイドボーンはそれを望んでいない。
そう思ったからこその、真っ直ぐな答えだった。
アレスは知っている。
同盟のヤンと同様に、帝国にもラインハルトという天才が存在することを。
天才の元に多くの才能を持った将兵が集まり、同盟が衰退していくことを。
だから、答えた。
「約束などできるわけがありません。むろん、終わらせるようにしますが」
それ以上の回答は無理だと、首を振ったアレスを、ワイドボーンは笑う事はなかった。
激高することもなく、弱虫だとなじることもない。
ただその唇を、ゆっくりと持ちあげる。
「それだけで十分だ、後輩」
「珍しく優しい言葉ですね、先輩」
ふんとワイドボーンは鼻を鳴らした。
「むろん貴様だけに努力しろとはいわん。その道は俺が用意してやる。だから……」
それ以上の言葉を、ワイドボーンは口にしない。
黙って右手をあげる。
作り上げた拳に、アレスはゆっくりと手を伸ばした。
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