約束
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だろうと。学校長は同盟が帝国に攻め入ることが可能だと御思いですか」
「無理だな」
シトレは即答した。
「既に長年にわたる戦争で、同盟全体が社会的機能に支障が出るまでに落ち込んでいる。この上さらに遠征したところで勝てる見込みはない。イゼルローンが攻略できれば、しばらくは内政に専念せねばなるまいよ」
「私に話をした者は、そうなることはないと考えていました。いや、出来ないと」
「……主戦論か」
スレイヤーは黙って頷いた。
戦略を考えたところで、それを選択するのは、政治家だ。
すでに軍の中に主戦論が主流となる中で、反戦を唱えるものの数は少ない。
長きにわたる戦争が、市民を変えてしまっている。
「それならばイゼルローンは攻略しない方がいいと」
「ええ。帝国も同盟と同様、長きにわたる戦争により疲弊しています。いや、帝国市民の疲弊は同盟よりも大きいものでしょう。今はまだ崩壊には至っていませんが、いずれは大きな政変が起きる。その時にこそイゼルローンは攻略すべきであり、今は伏する時代であると」
「まるで聞けば、簡単に攻略できそうな言葉だな」
シトレは声だけで、小さく笑って見せた。
しかし、ふと気付いたようにシトレは、スレイヤーに向き直った。
「参考だが、それを君に伝えたのは学生ではないかね?」
「いえ。残念ながら、その人間は生きてはいません。優秀な学生教官でした」
「サハロフ中佐か」
スレイヤーは言葉に、ゆっくりと頷いた。
「学生教官を終える前の懇親会でした。ローゼンリッターを超える陸戦部隊を作ると言うのが、彼の夢で……まさかその数ヵ月後に亡くなるとは思いませんでしたな」
「まったくだ。死んではいけない若者が先に死んで、老兵だけが生き残る。それでもまだ戦えと言われるのだからな。嫌な時代になったものだ」
「その彼が最後に私に尋ねたのです。それに私は答えられませんでした」
「……私でも答える自信はないよ」
シトレはゆっくりと首を振る。
戦争を終わらせるために戦っているはずだった。
だが、それを文民統制という言葉が許してくれない。
軍が間違えることを、市民が阻止するのは間違えていない。
だが、市民が間違えれば、果たして誰が止めるというのだろうか。
あるいは、それこそが市民の責任だと滅べばよいのか。
答えの出ない疑問は、シトレの心を落ち込ませる。
まったく、上官を落ち込ませることにかけては、右に出る人間はいないな。
思わぬ浮かんだ毒を、飲み込んだ。
と、振り向けば遠くを見ていたスレイヤーが笑っている。
何がおかしいというのか。
同盟の事を考えていた若者が死んだというのに。
そう考えて、シトレは気づいたようにスレイヤーに近づいた。
「そう
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