第一部
開戦
At the time
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はじめは自分の耳が悪くなったのかと思った。
勇者様だと?何の冗談だ。しかも同衾していた?出来すぎている。
ついでにこの男の風貌もおかしい。まるで中世の服装だ。
簡素なチュニックにズボン。サンダル履きに加えて腰には剣が差してある。
本物かどうかは分からないがこの状況からして拉致監禁。十分罪に問われる。
「どうした?勇者様の暖かさでも思い出しているのか?」
「ちがう。ここはどこだ?なぜこんな。」
「オイラにゃ答えられないな。ま、尋問官にでも聴くんだな。」
そういって男は去っていった。
まだ聴きたいことはあった。そして、なぜ尋問されるのかも。どれだけ特殊な性癖者が揃っているんだ。
だぶん生きて帰れないかな。このよく分からない土地で骨を埋めることになるのか。
「オレは……生きたい……。」
こんな所で野垂れ死ねるか。
娘一人残して死ねるか。まだ高校生なんだ。オレの親も既に他界してるし、嫁には小鉢が小さいときに逃げられて頼れない。ほかに親族もいない。
ある程度は生きていけるはずだが暫くの間だけだろう。変な男につけ込まれて怪しげな事に手を染めるかもしれない。
そうはさせない。オレは生きて小鉢の行く末を見守る。土屋一族は途絶えさせない。
二時間位して尋問官を名乗る男が現れた。
オレに化された罪状にを読み上げて申し開きはないか問う。
「勇者本人に謝罪したい。」
本当は自分に着せられた罪を問いただしたい。だが、それは許させるはずはない。オレが勇者とやらを襲ったという決定事項があるのだから。
尋問官は出来るわけがないと怒鳴るが脇から出てきた細身の男に諫められる。
面長で切れ長の目を持つこの男は狐のように見えた。
「罪を償うと言うのですね?」
金属音のような高い声が耳を撫でる。
ニタニタとした表情を浮かべた男は鉄柵の前まできて手を差し出す。
その手は細く白魚のように白くて女性みたいだ。だが、男だ。
無言でその手を取り頷く。
贖罪する気はないが、勇者とやらを一目見ておきたい。どれほどの人間が出てくるのか今から楽しみだ。
尋問官はため息をつくと鍵を取り出して鉄柵の扉を開ける。男は俺に出るように促した。
扉をくぐり手招きする男の隣に立ちその眼をじっくり見る。何かに取付かれているような、もしくは奥に秘めたことを曝け出さないようにしているのか、そのような顔だった。
「さあ、行きましょう。」
オレの背中に回された男の手は不思議な感じがしてならなかった。
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