第5章 契約
第74話 翼人
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ただ……。
ただ、ここでため息をひとつ。
今回の任務は、寡黙なタバサとこの世界的にはイマイチ不慣れな俺。
確かに、交渉事がそう不得意と言う訳では有りませんが、生まれた時から生活を続けて来ていた世界とは価値観や生活様式、考え方に至るまですべてが違う世界ですから、確実に双方を舌先八寸で丸め込めるとは限りません。
まして、今宵はスヴェルの夜。この世界にやって来てから、厄介な事件が起きる可能性が異常に高い夜ですから……。
そう考えながら、地上に目を遣る俺。
其処には、夕陽に赤く照らし出された火竜山脈の高き山々の絶景が広がって居たのですが、その赤き光りに沈む山々の景色が、今の俺には世界が血に染まったかのように見えて……。
何故だか、その瞬間。言い様のない寒気のような物を感じたのでした。
☆★☆★☆
ゴアルスハウゼンの村に向かう街道沿いの空き地にワイバーンを着陸させ、後は歩いて村に向かおうとしたその時、非常に馴染みの有る臭いに気付く。
いや、臭いとは言っても、実際に鉄臭い臭気に満ち溢れていると言う訳では有りません。ただ、周囲を支配する雰囲気の中に、何か殺伐とした田舎らしい長閑とは言い難い雰囲気が微かに存在していた、と言う事なのですが……。
周囲に視線を巡らせながら、同時に慎重に気を探る俺。
感じるのは遠くから聞こえて来る夜の足音。風に吹かれざわざわと……。ざわざわとざわめく木々。何処か遠くから聞こえて来る鳥の声。
近くで戦闘が起こって居たり、俺やタバサに対して直接の悪意を向けて来る存在が居たりする気配を感じる事は有りません。
そして同時に装備のチェック。
――――物理反射。魔法反射。呪詛無効化の形代も装備済み。
不意打ちで有ったとしても、この状態ならば、大半の攻撃に関しては一度だけならば完全に無効化が可能。
ワイバーンから降り立つと同時に臨戦態勢を取った俺の傍らで、同じように自然な立ち姿ながらも、周囲に警戒の気を放つタバサ。
周囲は秋の山道に相応しく、赤や黄色に色付いた木々が多く見受けられる落葉広葉樹が主と成った雑木林。
流石に、火竜山脈に含まれる地域だけ有って、地球世界のスイスのこの地方とは植物の植生も違い、おそらくはもっと南の方に見られる木々が主と成って居るように見受けられる。
そうして――
俺は有る一方向に視線を集中させてから、無造作にその雑木林の方に近付いて行く。
そして、俺の後方を護る位置に自然な様子で付くタバサ。但し、雰囲気としては殺伐とした雰囲気では有るが、戦場の緊張した危険な雰囲気とは少し違う状態。
何と言うか、戦闘が終わった後の雰囲気に近いと言えば近いのですが……。
その割と人の手の入った……。
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