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レンズ越しのセイレーン
Mission
Mission10 ヘカトンベ
(5) マクスバード/リーゼ港 C
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』へ行けそうなのに)

 落ちた真鍮の懐中時計を拾う。彼女の掌には大きく、しかし彼の手には小さな時計。

「あの娘の言う通りだ。お前はもう骸殻を使う必要はない」
「用済みってわけ?」
「いや。ルドガーは成すべき仕事を成したというだけさ。我が一族――ひいては人類の悲願、カナンの地を出現させたのだから」

 ビズリーは大きな掌をルドガーへ差し出した。

「これで精霊どもの思惑を打ち破れる。ルドガー。私はお前を誇りに思う」

 目を瞠った。天下のクランスピア社のトップから、これほど大きな賞賛を貰うことになるとは。数か月前のルドガーでは想像もしえなかった。

(正直、あんなグロイもん出現させてどんな叱責があるかと思ってたのに)

 自分はビズリーにそう言わせるほどの高みに来たのだ。
 ルドガーは応えてビズリーと握手を交わした。

 「カナンの地」への行き方は本社で説明するとビズリーは言い残し、先にクランスピア社へと帰って行った。




 ユリウスもエルも心配だが、ユリウスを追って空間を超える力は自分にはないし、ビズリーがエルを保護させると言った。ルドガーにしてやれることは一つもない。
 そう結論付けて自身も本社へ歩き出そうとした時――

「待って」

 いつもより大きめなユティの声が、ルドガーたちを引き留めた。

「行かなくていいよ。カナンの地の入り方、ワタシ、知ってる」
「はぁ!?」

 特秘事項のように扱われていた情報を、何故ユティが。そんな視線がユティに集中する。

「忘れた? ワタシは未来の人間。どうすればいいかは周りの大人が、教えてくれた」
「どんな方法だっ?」

 ユティに詰め寄った。どんな方法かを知って先にカナンの地への「道」を拓けば、エルも考えを改め、ルドガーの下へ戻ってくるかもしれない。

「目安としてハーフ以上の骸殻を持ったクルスニクの者。その者の魂を循環システムに潜り込ませて、内側から『橋』の術式を開錠させる。これが『魂の橋』システム。最後の最後に、費やした時間も労苦もなげうって、無私の献身をもって他者に後を託して死ねるかを見定める。『オリジンの審判』の中で最もえげつない試練」
「――――え?」

 困惑の声を上げたのは自分か、はたまた仲間か。

「分かりにくかった? もう一回言い直す?」

 しかしユティは妙な勘違いで首を傾げ、より生々しい形で告げる。


「殺すの。ルドガーとか、ユリウスとか、強い骸殻能力者を」


 場の全員にそれぞれの形で衝撃が広がった。

「エルはルドガーが殺されると思ったんでしょうね。でも彼女はまだ幼い。彼女に思いついたのは、カナンの地に行かないって言って、問題を根元から断ち切ることだけだった。行かないな
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