閑話 アレスとの出会い2
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―彼がそれを実戦できるのかどうかを」
「だから、ずっと見逃していたと」
「ああ。そこで逃げるのであれば、彼はそこまでの人間だっただけだ。口では理想を語ったとしても、それを実行する力がなければ意味がない。ましてや、今は彼に襲いかかるのは単純な実力行使だけだが、これからはもっと淀んで汚い攻撃が待っているだろう」
思い出したのか、サハロフは顔をしかめた。
おそらくはサハロフ自身も、その汚い攻撃を経験した事があるのだろう。
それが実感となって、スーンはアレスの背中を見送った。
「彼は強くなった。周囲の攻撃に負けることなく、見事に打ち果たしてみた。見事だよ――願わくば、いずれ彼の下で働きたいものだな」
「え?」
驚いたようにスーンが見上げる姿に、サハロフはゆっくりと笑った。
「学生教官がそう思うのは不思議か?」
「いえ。私も――。アレスの下で働きたいとそう思いますから」
「そうか。それはライバルが増えた。ああ、この話はマクワイルド候補生には秘密にしておいてくれ」
「ええ。ありがとうございました、教官」
サハロフは小さく手を振ると、試合場に向かった。
「さて、最後だ。たまにはフェーガン候補生も鍛えてやろう」
そう言って、フェイスガードをかぶる。
実技を初めて見せた陸戦隊の学生教官の実力は――フェーガンに初めての黒星をつけたのだった。
+ + +
一学年最後の三月に、同盟軍と帝国軍の遭遇戦が起こった。
僅か一日ばかりの攻防は、帝国軍の撤退により小さな記事となる。
歴史書に一行ばかり書き加えられる、小さな戦闘。
しかし――その日は士官学校においては大きな一日となった。
「この戦いで、残念ながらサハロフ大尉は名誉ある戦死を遂げられた。いや、いまはサハロフ中佐だったな」
教官の事務的な連絡は、あまりにも慣れを感じさせる。
ざわめきが波のように収まる中で、スーンは鉛筆を手にしたままで聞いていた。
ニコライ・サハロフの戦死。
軍人であるから、死は等しく訪れる。
自分のみならず身内や同僚もだ。
それでも、つい先日まで学生教官として働いていた姿は今でもはっきりと思い出せる。
厳しくも優しい学生教官の死に、誰しもがショックを隠せなかった。
フェーガンも再戦の機会を永久に奪われたのだろう。
不快さを隠さずに、この驚くべき事実を伝えた教官を見ている。
その視線にすら慣れているのだろう、教官は静かに手にしていた紙を折り畳むと、フォークへと渡した。
「遭遇戦の戦闘結果だ。要旨だけだが、君らも見ておいた方がいいだろう。終わったら回収する、以上だ」
終わりを告げて、今日の授業が終了した事を告げる。
だが、誰もその場から動く事はできないでいた。
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