暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
ALO
〜妖精郷と魔法の歌劇〜
地底世界ヨツンヘイム
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ではないか。

ひゃっと背筋を伸ばしてから、どうやって叩き起こしてやろうかと両手を中でわきわき開閉させる。

とはいえ、居眠りするのも無理はない状況ではあるのだ。

何せ、視界右下端に表示された現在のリアル時刻は、すでに下前二時を回っている。リーファ自身もいつもならとうにログアウトし、ベッドで熟睡している時間だ。

はぁ、とため息をもう一つ吐き出し、リーファは心を鬼にして左手で拳骨を作ると、それを同行者の、ぴんぴん尖った黒い髪の真ん中目掛けて落下させた。

ヴォクシッ、というような割と爽快な効果音とともに肉弾攻撃特有の黄色いエフェクトフラッシュが閃き、同行者が奇妙な声とともに飛び起きた。

両手で頭を押さえてきょろきょろ首を巡らせる顔に向かって、リーファはにっこり微笑みかけた。

「おはよー、キリト君」

「………お、おはよう」

おはようございますパパ、ヴルル、という二つの挨拶を聞きながら、同行者、浅黒い肌に黒い髪を持つ影妖精(スプリガン)族の剣士キリトは、少年漫画の主人公めいたやんちゃな風貌にそぐわないしょぼくれた表情を浮かべて訊いてきた。

「……俺、寝ちゃってた?」

「あたしの膝の上で、ね。小パンチ一発で済ませてあげたのを感謝しなさいよね」

「そりゃ失敬。何ならお詫びに、リーファも俺の膝枕で…………」

「要りません!」

大きく顔を逸らせてから、横目でじとっとキリトを睨む。

「あほなこと言ってないで、夢の中で思いついたナイスな脱出アイデアでも披露したら?」

「ない!」

「威張って言うな!」

訊いたあたしがバカだった、と肩を落としたリーファは、もう一度首を伸ばして辺りを見回した。

雪原の彼方にさっきはうっすらと見えていた異形の影の姿は、もう影も形も見えない。見渡す限りの深い闇の向こうに見えるのは、身体の芯から凍らせるような風によって巻き上げられた雪が舞うのみだ。

振り返って見ても、あるのは降り積もった雪にどこまでも点々と付いているクーの巨大な肉球の足跡だけだった。

スイルベーンを出発したのが今日────正確にはもう昨日の夕方。

広大な森林地帯を飛び越え、長い鉱山トンネルを駆け抜け、オマケに敵対するサラマンダー達の襲撃をも虐殺────もとい退けて、シルフ領主サクヤとケットシー領主アリシャ・ルー、フェンリル隊等と別れたのが午前一時過ぎ。

途中で何度かトイレ休憩を取ったとは言え、その時点で連続ダイブも八時間に達していた。

央都アルンはまだ遥か彼方に霞み、とてもすぐには到着できそうにはなかったので、今日のところはここらで切り上げて最寄の宿屋でログアウトしようということになり、リーファ達はちょうど視界に入った森の中の小村にこれ幸いと降下した。
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