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皇太子殿下はご機嫌ななめ
第27話 「冷静と情熱のあいだ」
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っても良いかもしれない。
 全貴族に命令を下せる。
 そして貴族達は従うだろう。けどな、今までは皇帝でさえ、貴族達の反発を恐れていただろう。
 だから、全軍を動かせなかった。
 この違いはどこから来るんだろうな。

「まず第一に、正統な皇太子である事。皇位を争うような対抗馬がいないんです。第二に、ブラウンシュヴァイク、リッテンハイムという二大派閥を抑えている事。それに平民からの支持も厚い。そして軍も押さえています。ルドルフ大帝以来でしょうね。これほどの権力を握っている皇族は」
「ルドルフ大帝か……。あの皇太子、ルドルフになるつもりなのか?」
「なりたくないと、思っているのかもしれません」
「なりたくない?」

 しかしルドルフそのものだろう。
 絶対的な専制君主なんだろう。
 それでいて、なりたくないか?

「帝国軍三長官を兼任していません。あくまで、帝国宰相ですよ。権力を自分一人に集中させようとはしていないんです」
「うん?」
「文民統制の原則を貫いています。自律、自主、自立。ある意味、アーレ・ハイネセンの説いた理想を体現しているんです、あの皇太子。同盟には皇太子と、対等な政治家はいないでしょう」
「ま、確かに、皇太子と比べると見劣りするな」
「あんな名君はそうそう現れません。そして、本人もそれを自覚している。だからこそ自分一人に権力を、集中させないようにしているのかも」
「怖いな」
「ええ、怖い相手ですよ。いうなれば、誰もが理想とする君主でしょう」
「強く、理性的で、現状をしっかりと見据え、行動する。この人の下でなら今より良くなる。そう思わせる。そんな専制君主か……」
「だからこそ、民主共和制の最大の敵と言えます」

 ■統帥作戦本部 ダスティ・アッテンボロー■

「先輩、キャゼルヌ先輩の様子はどうでした?」
「あいかわらず忙しそうだったよ」
「イゼルローン攻略戦がありますからね」

 あいかわらずですか……。
 うん。まずそうに先輩がコーヒーに口をつけている。
 紅茶党だからな、先輩は。
 どうせ、インスタントなんだから、紅茶があってもおかしくないんだが、軍はコーヒーばかりだ。
 汚職でも絡んでいるんだろうか?

「軍の伝統なんだろう。汚職とは関係ないと思うよ」
「それにしても帝国、動きませんね」
「動いてるよ。動かない事で、同盟を揺さぶってる。たいした戦略家だよ、あの皇太子」

 明確な目的を持って行動する。
 専制君主を見習えとは言いにくいが、こういうところは見習ってもらいたいもんだ。

「確かに、どっしり腰を据えて、国力回復に努め、必要な段階で必要なだけ軍を動かす。本来、文民統制とはこういう事なんだろうね」
「選挙のたびに、おろおろする政治家とは大違いだ。ど
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