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久遠の神話
第五十三話 十一人目の影その八

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「けれど。何の努力もしないで偉そうに不平不満ばかり言って」
「今は何処にいるか」
「わからないわ。本当に死んだんじゃないかしら」
 また言う樹里だった。
「これでも子供の頃は私も零もその人に懐いてたのよ」
「今は?」
「はっきり言って好きじゃないわ」 
 かなりオブラートに包んでいる言葉だ。
「もうね」
「やっぱりそうなんだ」
「いなくなって本当に」 
 どうかというと。
「よかったって思ってるわ」
「そう思われる様になったらもうね」
「終わりよね」
「そう思うよ」
 上城は悲しい顔になって答えた。
「人間としてね」
「そうよね。どうしようもない人だったから」
「多分ね、お寺に入ってね」
「あそこでしっかりとしてればね」
「その人人間として助かったと思うわ」
 そうなったというのだ。
「やっぱりね」
「残念な話ね」
「本当にね」
 二人でこうした話をしていうとだった。そこにその零が帰ってきてそのうえで二人に対してこう言ってきたのだった。
「あれ、上城さんもいたんだ」
「あっ、お邪魔してるから」
「ふうん、それでお姉ちゃんの手料理を食べてますよね」
「?それがどうしたのかな」
「何かそれって」
 上城から見れば不自然ににやにやとして言う零だった。
「夫婦みたいですね」
「夫婦?そうかな」
「はい、何か」
「別にそんなことはないけれど」
「そうよ、何言ってるのよ」
 上城だけでなく樹里も気付いていない、それで二人で零に言うのだった。
「僕達は別にそんな」
「ただ飲んで食べてるだけだから」
「飲んでるって・・・・・・ああ、ワインだね」
「ええ、そうよ」
 樹里はコップの中のワインを飲みながら弟に答える。
「こうしてね」
「そのワインどのワインなの?」
「甲州ワインだけれど」
「お父さんが買ってたチリのワインじゃないんだ」
「あれお父さんが飲むと思って」
 それでだというのだ。
「置いたけれど」
「ああ、そうだったんだ」
「そうしてよかったわよね」
「いいと思うよ。ただね」
「ただって?」
「チリのワイン結構あるからお父さんも飲んでも何も言わないよ」
「そうだったの」
 樹里も気を遣ったのだがそれには及ばなかったというのだ。
「ううん、けれど」
「甲州でいいんだ」
「別にね。よかったと思うよ」
「そうだったのね」
「じゃあ今はね」
「今はよね」
 樹里は飲みながら弟に応える。
「楽しんで飲めっていうのね」
「後片付けできる?」
「そこまで酔ってないから」
 だから大丈夫だというのだ。
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