第二部 文化祭
第39話 ありがとう
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「は〜っ」
正面の椅子に座るリズベットが盛大な溜め息を吐く。
「な、なんだよ?」
俺が訊くと、こちらをキッと睨んだ。
「あんた結局、アスナなんじゃない」
「え……?」
「だ・か・ら、せっかくあたしみたいな美少女と屋上で二人きりだっていうのに、別の子のこと思い出しちゃうわけでしょ?」
「……美少女って」
「うっさいわね! 自分を美少女呼ばわりしちゃいけないっての!?」
「いや別に」
リズベットは呆れ顔で俺を一瞥し、再び溜め息を吐く。
「あんたもしかして、アスナを傷つけるようなこと言ったんじゃないでしょうね」
「それは、ええと……」
「それが後ろめたいから話しかけづらいとか、どうせそんなんでしょ?」
「……」
「あのね、アスナはそんなにヤワじゃないわよ。どれだけ傷ついても、一度決めたことは絶対に曲げないから」
微笑み、言う。
「あたしね、キリトのことが好き。でもね、アスナを応援しようって決めてるの。だから……頑張んなさいよね」
そんなことを言われても、アスナを傷つけたことに変わりはない。
──また、傷つけてしまったら?
その時、リズベットが俺の胸倉をガシッと掴んできた。
「いい加減にしなさいよね!!」
よく通る、大きな声で叫ぶ。
「あんたがヘナヘナしててどうすんのよ! あんたよりもアスナの方がずっと不安に思ってるってことくらい、悟りなさいよね!!」
その声は、少し湿っていて、籠って聞こえた。
手を放し、言う。
「……わかったら、今すぐアスナを捜しに行ってあげて。あたし、寮に帰るから」
「……リズ」
「顔、見ないで! ……絶対に敵わない恋敵に塩を送るとか、結構きついんだから」
テーブルの上に、二滴、三滴と雫がこぼれ落ちる。リズベットは俯き、その顔を隠すように涙を拭った。
「あたし、もう行く!」
そう言って立ち上がるリズベットの手を、俺は掴んだ。
「……ありがとう」
俺なりの笑顔を作ってみせると、上げられたリズベットの顔がくしゃっと歪んだ。
「……やっぱりあたし、あんたが大好き」
「え? 何か言……」
「なんでもない! じゃあね!」
リズベットは手を振りながら、屋上を走り去っていった。
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