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久遠の神話
第五十三話 十一人目の影その四

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「あっ、時間だから」
「ポトフいい時間なんだ」
「ええ、じゃあ今から入れるから」
「うん、お願いするよ」
 話は一時中断となった。樹里は席を立ってシチュー用の皿を二つ出してそこにそれぞれポトフを入れた。そのうえで戻って来てだった。
 スプーンでポトフの中のよく煮られた玉葱をすくって食べながらまた言ったのである。
「私はそれでいいのよ」
「満足できているからだね」
「そう、それでいいの」
 こう笑顔で言うのだった。
「私はね。上城君もよ」
「僕もなんだ」
「私には気を遣わなくていいから」
「そういうことでだね」
「そう、いいから」
「いや、そう言うとね」
 上城は人参、ポトフの中のそれを食べながら答えた。
「僕もだよ」
「上城君もなの」
「そう、他の人にいいことをするとね」
「心がすっとするからなのね」
「気を遣うよ。だからね」
「私に対してもなのね」
「それでいいかな」
 微笑んでの言葉だった。
「僕もね」
「ううん、難しいわね」
 上城の今の言葉に樹里は今度は苦笑いになった。
「そう言われると」
「どうしていいかだよね」
「本当jに気を遣ってもらうって苦手なのよ」
「実は僕もなんだ」
 彼にしてもそうだった。
「人に気を遣ってもらうのはね」
「苦手なのね」
「悪い気がしてね」
 上城はそのポトフをすすりながら樹里に話す。
「それでなんだ」
「そうよね。何か人に悪いことしてるみたいで」
「そう思うよね」
「いいことをしてもらって感謝しないっておかしいし」
「そうそう、甘えるってこともよくないし」
「図々しい人って嫌いだから」
「そうだよね」 
 この考えは二人共だった。
「どうしてもね」
「ええ、私の親戚でいたけれど」
 樹里は眉を顰めさせてから上城にこうした人の話をした。
「私の死んだお母さんの従兄の人なの」
「その人が図々しかったんだ」
「碌に働くこともしないで口で偉そうなことばかり言って人の家に上がり込んで来てお父さんや零の部屋に勝手に入って本を漁ったりして」
 そうした人間だったというのだ。
「家でも夕方に行っていいか、じゃなくて行くからって言って来てね」
「自分の家でもないのに?」
「そうなの、それで来てね」
 そうしてだというのだ。
「御飯晩に四杯、朝に三杯も食べておかずも作らせて帰るのよ」
「お風呂にも入ってお布団も用意させてだよね」
「そう、コーヒーも自分で入れないで私に入れろって言って」
「それはまた酷いね」
「働いてないからお父さんにお金を貰ってたし」
 働かなくても金は生きる為に必要だ、その金はそうして手に入れていたというのだ。
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