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戦国異伝
第百三十九話 千草越その十二

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 傍に控える者を見てこの言葉を告げた。
「わしの具足と陣羽織を持て」
「では」
「出陣するぞ」
 こう告げたのである。
「わかったな、よいな」
「いえ、それはなりませぬ」
「そのお身体では」
 ここにいる者達は皆宗滴の家臣達である、だから彼を気遣い言ったのだ。
「戦は無理です」
「まだお休み下さい」
「しかし次の戦はじゃ」
 どういった戦かということは宗滴が最もよくわかっていた、それで何としても出陣しようというのだ。彼にしてもここは動かぬ訳にはいかなかった。
 だが床から出ようとしてもだった、それも適わなかった。
 身体が思う様に動かない、それでだった。
 持って来られた具足を見てだ、苦々しい顔で言った。
「どうにもならぬ、これでは」
「ここはお休み下さい」
「無念ですが」
「そしてそのうえで」
「次の戦の為に」
「次があればよいな」
 心から言った、どうしても出た言葉だ。
「若しその時があればな」
「その時にお願いします」
「どうか」
「わかった」
 こう言って今は床にいるしかなかった、そうしてだった。
 彼は床の中に己の体を寝かせて忌々しげに述べた。
「高麗の人参を持って参れ」
「あれをですか」
「あの霊薬をですか」
「そうじゃ、持って参れ」
 まさにそれをだというのだ。
「よいな」
「ではあれを食され」
「他の秘蔵の霊薬も持って参れ」
 高麗人参だけではない、その他のものもだというのだ。
「当家にある全ての霊薬をな」
「そうじゃ、全て持って参れ」
 こう告げたのである。
「わかったな」
「ではそれを全てお身体に入れられ」
「そのうえで」
「そうじゃ、次の戦では何としてもじゃ」
 戦うというのだ、それでだった。
 彼はその高麗人参を食べてそして言うのだった。
「これより霊薬を毎日常に食しじゃ」
「お身体を蘇らせられますか」
「そうされますか」
「これだけのものを常に食せば今の身体なら何とか起き上がれる」 
 そしてだというのだ。
「次の戦には間に合うであろう」
「今は間に合わずとも」
「それでもですな」
「わしは戦う」
 執念に満ちた目での言葉だった。
「何としてもな」
「その為にもですか」
「霊薬を」
「全て使ってもじゃ」
 そうしてもだというのだ。
「わしは身体を戻してな」
「では御願いします」
「是非共」
 宗滴の家臣達も彼の身体の回復を必死に願っていた、彼でなくては織田家に対することが出来ないからだ。
 それでだ、その高麗人参や霊薬を口にする宗滴にしきりに言うのだった。朝倉家を憂うが故に。


第百三十九話   完


                  2013・5・31
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