第百三十九話 千草越その十一
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「その大叔父上ならばじゃ」
「織田家が相手でも」
「心配は無用でありますか」
「そうじゃ、所詮は弱兵じゃ」
まだこう言う義景だけは織田家が弱兵であるが故に武具や具足がよいものであり鉄砲も数多く揃えてそれで強くなっていることに気付かない。
そうしてだ、今もく言うのだ。
「それで何故恐れる必要がある」
「では今度も」
「この度もですか」
「うむ、出ぬ」
こう言ってまた飲むのだった、酒を。
そしてまた持って来させる、そして飲み詠うばかりだった。
これでは家臣達も言う言葉がなかった、途方に暮れて彼の前から下がってだった。
それで廊下で項垂れつつ言うのだった。
「その宗滴様とてご高齢だというのに」
「今もお身体を崩され動けぬのだぞ」
「それでどうしてまだ宗滴殿を頼られる」
「前にしても金ヶ崎まであっという間に陥とされこの一乗谷まで僅かの場所にまで迫られたのではないのか」
このことは朝倉家に深刻な危惧を与えた、しかし義景はこのことも理解していない。
それでだ、こう言うばかりだった。
「徳川家も強いのだぞ」
「今の当家の軍勢では徳川家にも勝てるかどうか」
「これではどうなるかわからぬ」
「朝倉家はこれで終わりか」
「滅びるか」
「殿があれでは」
家の行く末に暗澹たるものさえ感じていた、そうして。
彼等は遂にだ、こうした言葉も出した。
「どうする、このままでは我等も滅びるぞ」
「殿と共に」
「あの殿では巻き添えを喰らうのもな」
「あまりのう」
義景に見切りを見出しかけていた、彼等は朝倉家だけでなく自分達のことも考えていた、朝倉家は今暗い中にあった。
それを察してだ、病の床の宗滴も言うのだった。
「このままでは危うい」
「ですな、確かに」
「このままでは」
宗滴の家臣達が彼の傍で応える。宗滴はその彼ら等に床の中から上体を起こしてそのうえでこう言ったのである。
「殿があれでは」
「はい、これではです」
「殿だけが遊んでおられ気付いておられませぬが」
「このままではです」
「当家は再び」
滅びるというのだ、それでだった。
宗滴は深刻に考えてからこう言ったのだった。
「やはりわしが出るか」
「出陣されるのですか」
「そうされるのですか」
「そうじゃ、出ようか」
出陣を言うのだった、それでだった。
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