第百三十九話 千草越その十
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「よいな、ではな」
「はい、それでは」
「出陣ですな」
「この戦いではどんな相手でも背を見せずに戦う」
絶対にだというのだ。
「そして勝つぞ」
「畏まりました」
こうして徳川家の一万の軍勢は出陣した、黄色い具足に旗の者達が意気揚々と浜松城出た、そして一路尾張から美濃に向かう。
それを受けてだ、信長は岐阜城で確かな笑みで言った。
「ふふふ、竹千代も出たな」
「ですな、それでは」
「この岐阜において」
「まずは竹千代と合流するぞ」
こう傍にいた岡本と万見に言う。
「それからじゃ」
「近江にて元親殿とも合流し」
「そして、ですな」
「猿夜叉、御主は死ぬことはない」
決してだというのだ、そのことは。
「決してな」
「長政様は救われますか」
「何としても」
「まずは姉川辺りで戦になる」
そしてだというのだ。
「それに勝ってからじゃ」
「それからですか」
「次は」
「うむ、まずは外の戦で勝つ」
それからだというのだ。
「ではな」
「はい、それでは」
「徳川殿と合流してじゃな」
信長はその時を楽しみにしていた、そして。
織田家の十万の大軍も徳川の軍勢と合流する形で出陣した、彼等は近江に向かう。
このことは浅井家にも伝わりすぐに出陣の用意に入った、だが朝倉家はというと。
義景は相変わらずだった、今もだった。
一乗谷の館において酒を飲みつつ和歌を詠んでいた、その彼に家臣達がしきりに促した。
「殿、ここはです」
「出陣を御願いします」
「いよいよ決戦の時です」
「織田家がまた来ました」
こう言って促す、だがだった。
義景は全く聞く耳を持たない感じだ、それでだった。
侍らしている女達に顔を向けてこう言った。
「酒をもっと持って参れ」
「はい、それでは」
酒を持って来させて飲む、そして和歌を続けるのだった。
その彼にだ、家臣達はさらに言う。
「十万ですぞ、織田家は」
「その十万の兵で来るのですぞ」
「それに徳川の軍勢も来ます」
「ここは殿御自身が出陣されて下さい」
「さすれば兵の士気も上がります」
「ですから」
彼等も必死だった、だが。
義景は今もだった、悠然と酒を飲み和歌を楽しむばかりだった。それで己にしきりに言う家臣達にこう言ったのである。
「よいよい、浅井家が何とかしてくれるわ」
「浅井殿は一万ですが」
「一万しかおりませぬが」
「では大叔父上がおられる」
浅井が駄目ならば宗滴だった、やはり飲みながらの言葉だ。
「何を案ずることがある」
「敵は合わせて十一万でもですか」
「しかも織田家はまだ力がありますが」
家臣達は義景にまだ言う。
「それでも臆することはないと」
「そう仰いますか」
「大叔父上は僅かな
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