決勝戦〜後編〜
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そ、こちらも勝負をかけることもできない。
結果は相互に出血が増えて、膠着状態に陥っている。
時間が過ぎれば、不利になるのはこちらの方だ。
時間切れになれば、相互の損傷艦艇数でこちらの敗北が決定する。
まったく化け物だと、首を振ったアレスの耳に、緊張のこもった声が聞こえた。
『マクワイルド候補生』
「何でしょう」
『動くぞ』
たった一言。
ワイドボーンの言葉に、アレスは理解したように頷く。
皮肉気にゆっくりと唇を曲げながら。
「向こうは承知の上でしょうね」
『当然だな』
「それでも動きますか」
『他に手があるのならば、聞いてやる』
「そうですね――」
小さく呟いたアレスの言葉に、ワイドボーンの楽しげな声が筺体に響いた。
馬鹿にしたような気配のない、純粋な笑いだ。
『相変わらず楽しませてくれる。それが可能だと思うか?』
「普通ならやろうとも思いません。ただし、この状態ならば、ワイドボーン先輩の日頃の行いが良ければ成功するかもしれませんね」
『面白い。なら成功は決まったようなものだ――貴様の好きにするといい』
「ええ。少しくらい驚いてもらいましょう」
アレスの唇が、緩やかに笑みを作った。
+ + +
「動きましたな」
観客席の一角で、スレイヤーが小さく呟いた。
それまで一言も話さずにいた周囲は、スレイヤーの言葉によって時間が動きだしたようだった。
渇いた喉を潤すコーヒーを嚥下する音が大きく響いた。
小さくすする音とともに、隣席のシトレが渋い顔を作る。
「少し遅い気がするがね」
「そうでしょうか」
「ああ。どの道動かねばならんことは決まっていただろう。それなら動くのは早い方がいい。ワイドボーンは遅すぎるな」
「攻撃を加えて、相手が崩れる事を狙っていたのかもしれません」
「それが容易ではないことは、最初の二分で理解すべきだ。まだまだ甘い、どちらも……何だね」
隣席からの視線に気づき、シトレが眉をひそめる。
彼の視線の先で、笑いを誤魔化そうとして失敗したスレイヤーがいた。
それを理解して、スレイヤーは咳払いをして、笑いを抑える。
「しかし、学生に対する評価にしては少し厳しくはありませんか」
「学生。あ、うん、学生……学生だったな」
「忘れておられましたか」
「ん、ああ」
シトレはモニターを一度見て、困ったような表情を浮かべた。
何といっていいか、しかし、誤魔化すこともなく小さく呟いた。
「いかんな。自分が総司令官の立場でいた気になっておったようだ」
「気持ちはわかります。確かに甘く、未熟なでしょう。けれど――心踊らされる」
スレイヤーの言葉を認めるように、シトレは頷いた。
「ああ。この戦
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