6-1話
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たらいなかったから、早まった事をするかと思ったんだよ」
「………早まる、ですか……本当は―――そうしようと思っていました」
「なっ!?」
仙石はこれに心臓が萎縮した。
彼が想像していた事は杞憂ではなかった。
もしかしたら…と、手遅れの可能性を想像して仙石は少し怖くなった。
だが、しかし彼女はこうしてちゃんと生きている。
「昨日の話……聞いてました」
「え?」
「私、……あれを聞いていて迷っていました。 こうして生きていてもしょうがない、だから喰われるくらいなら……と考えるくらい思い詰めていて…でも朝になって、やっぱり喰われるのが怖くなってここに来たんです」
仙石の胸が苦しくなってきた。
今はこうして大森は生きてはいるが、自殺へと続くような道程を聞かされて気が気ではなかった。
「でも……この子が来てくれたんです」
「この、子?」
トン…と不意に、小動物のような温かみを帯びた“何か”が仙石の頭に飛来してきた。
「うぁっ!? な、何だ!? ちょ……ぇ……お、お前……プティロドゥス?」
仙石の頭に乗ってきたのは、あの尾が長くて虎縞模様をさせたリス似の絶滅動物だった。
クリクリとつぶらな目をさせて仙石を見詰める人懐っこいその素振りに、仙石はどこか既視感を覚えた。
野生の動物であるはずのそいつに、まさか…の可能性を沸かせた。
「もしかして……“お前”のなのか?」
まるでそれがわかっているかのように、プティロドゥスは鳴き声で反応を返した。
その人の言葉がわかるかのような賢い反応は、間違いなく天信睦月が齎したプティロドゥスである。
「その子が私の前に現れたんです。 だから……私は一線を超える事はしなかったんです」
その事実に仙石は驚愕する。
掌に乗れるほどのサイズのこのプティロドゥスがやった事は決して小さくないきっかけだ。
死路を行く大森を止めてくれた小さな恩人に、仙石は感謝の気持ちを汲んだ。
「そうか……お前が止めてくれたんだな。 でもよかったよ、思い直してくれて」
「いえ、私こそあんなに取り乱して…ひどい事言って………ごめんなさい…。 あなたもお家に帰りたいでしょう……」
「……」
「私も…帰りたいです」
だから…まだ生きていたい、と大森は仙石と同じ言葉を出した。
絶望して、死に向かっていた女の姿はそこにはない。
そこにいるのは、まだ希望を抱いて明日を生きようする大森夏奈子だ。
「……気にするなよ。 生きていてくれれば、いつか何とかなる…諦めんなよ」
「はい…ありがとう。 頑張りましょう…そして一緒に帰りましょう」
背中越しに伝わる言葉に、仙石はちょっと嬉しい気分になった
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