七話 「日々の鍛練」
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分の頑張りなど無意味だと言われるようで。
自分などと違い、全うに師に会えたのなら、それこそ既に自分を超えていただろう。アカデミーにでも行けば、十二になるずっと前に卒業できてしまうだろうと確信できる。
そして同時に理解している。この思いが、あくまでも一過性なのだと。
従順な性格など最初から分かっていた。だが、実際に見て動揺しただけ。才能も、一度抜かされでもすれば容易く諦めがつくだろう。そもそも、自分よりも強くなることが分かっていたから連れてきたのだ。弱ければ意味が無い。
だから今している行為は下らない、形のない悪あがきなのだ。そう理解しているからこそ、衝動のままに体を動かし続ける。
無論、本格的に自分の限界を無視し壊すつもりはない。それは何が在ろうとしてはいけないのだから。寸前で止める程度の理解はある。
自分の意志でもって最初に壊す体が、自分の物など笑えないのだから。
手の痛みが治まるまで、型の練習をしようと木に向かい、軸を意識しながら蹴りを放つ。
途端、鈍い痛みが走る。何が起きたかと、服を捲る。
脇腹に、小さな痣が出来ていた。
「……はは」
意識しない内に、いつの間にか小さく声が出ていた。
俺は全身の疲労や痛みを無視し、ひたすら動かし続けた。
それから暫くし、全身が悲鳴を上げきる頃、鍛錬を止めた。
「あー、疲れた」
町中を歩きながら一人ごちる。全身が疲れ切っている。
少し休んだからある程度大丈夫だが、それでも体が重い。
帰るだけならばわざわざ町を通る必要も余りないのだが、少し寄り道だ。
疲れたので、何か甘い物が欲しいのだ。
その考えで、白露屋に足を向ける。
「おっちゃん、何か甘い物くれ」
「何か疲れたげな顔してんなイの字。友達と遊んでたのか?」
「まあ、そんな感じです」
そんなわけないが言う訳にもいかず、適当に誤魔化す。
度々買いに来て、ここのおっちゃんとも数ヵ月の付き合いだ。中々にフランクな会話もする。イの字、なんて呼ばれもする。
ちなみに子供の友人がいないわけではない。知り合いはいるし、会って気が向けば適当に話したりもする。
もっとも精神の差から微笑ましい感じで、友人、と言っていいのか微妙だが。
知り合いの少年や少女から共に「イツキってさ、怒らないよね」とか「大人みたいなこと言うな!」と文句言われたこともある位だ。
まあ、それはさておき。甘い物が欲しい。
「疲れてるんで、甘いもの下さい」
「言う事が何か歳違うよなぁ。甘い物ならいくらでもあるぞ。試作品の羊羹でも食っとくかい? 安くしとくよ」
「じゃあ、それ下さい」
饅頭は結構買うため、違う物がいい。
代金を払い、一本貰う。
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