暁 〜小説投稿サイト〜
占術師速水丈太郎  横須賀の海にて
第七章
[3/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
 死霊は上を見上げた。するとそこに彼が立っていた。
 速水は空中に一人立っていた。その白いコートに手を入れて悠然と死霊を見下ろしていた。
「空か」
「そうだ」
 彼は答えた。
「私は空にも立つことができるのだ。浮遊術というやつだ」
「それまで知っていたのか」
「驚くことはない。基本中の基本だ」
 彼は静かな声でこう言った。その顔は死霊を見下ろしていた。
「違うのか。そちらの世界では」
「くっ」
「どうやら貴殿は空には弱いようだな」
 速水は死霊を見下ろしたまま言う。
「海に心がある為。もう一つの青の世界には来ることができぬか」
「空なぞ」
 彼は呻く様に言った。だが顔は変わりはしなかった。口さえ開かない。
「何もない場所だ。だが海は違う」
「違うというのか」
 速水の身体も死霊の姿も青白い炎が照らしていた。今二人は下からその光に照らされていた。速水の青い服も白と赤のコートも死霊の黒い服も全てその青白い光を映していた。それが死霊の表情のない仮面の様な顔も速水の白面に黄金色の目も映し出していた。今二人は夜の闇の中にその青い光を浴びて対峙していた。
「そうだ、違う」
 死霊はまた言った。
「空には何もない」
「何もないか」
「何があるというのだ。あるのは雲と」
 言葉を続ける。
「雷だけだ。全てを滅ぼす雷だけだ」
「全てを滅ぼすか」
 速水はその言葉にあるものを見ていた。
「それ以外には何もない。空には何一つありはしないのだ」
「だが海にはある」
「そうだ」
 死霊は答える。
「だからこそ私はここにいる。全てが存在する海に」
「貴殿が海を愛しているのはわかった」
 速水はそこまで聞いて答えた。
「だがな。ここは生きる者の世界だ。死せる者の世界ではない」
 冷たく、抑制の効いた声で語る。
「それはあちらの世界で言うのだな。少なくともここで言うことではない」
「今更その様なことを」
 死霊は聞き入れようとはしない。
「言おうとも無駄なことだ。それは私を倒してから言うのだな」
「ではそうさせてもらおう」
 速水は答えた。
「今ここで倒してな」
「フン、戯れ言を」
「戯れ言だと思うか」
「言った筈だ、私は満月の時に強くなると。見よ」
 青白い炎の力が強くなった。
「これが私の力だ」
 艦どころか海までもが炎に包まれた。
「この炎で。御主を焼いてやる」
「冥府の炎でか」
「そうだ。魂を焼き尽くすこの炎で。今そこまで燃やしてやる」
「迷惑なことだな」
 速水は足下に迫る炎を見下ろして呟いた。
「幸い他の者に害はないにしろ。ここまで派手にやられると」
「滅びるのだ」
「そもそもこんなのものは冥府の炎ではない。本当の冥府の炎とは」
 表情が変わった。
「黒いものだ
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ