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占術師速水丈太郎  横須賀の海にて
第六章
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を照らしていたというのに」
 だが今は月が世界を照らしていた。太陽の燦燦とした光ではなく落ち着いた朧な光で夜の世界を支配していたのであった。
「月ですか」
 速水はその月を見た。見ればもうすぐ満ちようとしていた。
「もうすぐですね」
 彼は呟いた。
「満ちるのは」
 月を見る右目の光が変わった。強く鋭いものとなる。
 そして髪に隠されている左目も。それは見えはしないが右目とはまた違った不思議な光を放っていたのであった。だがそれを知る者は彼以外にはいなかった。
 そのまま歩いて港にまで戻り艦に入る。そして英気を養え終えた彼は満月の日の戦いに心を備えさせるのであった。
「いよいよですね」
 その満月の日になると艦長が彼に声をかけてきた。
「今日ですか」
「はい」
 彼は答えた。もうその顔には余裕も遊びもなかった。
「健闘を御祈りします」
 一言であったがそれで充分であった。戦場に身を置くことも考えられる人の言葉である。一言といえどそれには他の者が口にする場合とは比較にならない重みがあった。
 彼はこの日部屋から出なかった。そのまま何かを養っているようであった。部屋には誰も近付かずそのまま時間が過ぎた。そして遂に夜となった。



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