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占術師速水丈太郎  横須賀の海にて
第二章
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「ここ数年あれでしたけれど今年は頑張ってますね」
「本当に。もうあの時は」
 どうしようもない程弱かったあの時を思い出して二人は話をしていた。
「もう笑うしかありませんでしたから」
「ええ」
「けれど今は違いますし。ほら、あの若いピッチャー」
「ええと」
 と言われても何人かいる。咄嗟には思い出せない。
 とりあえず見当をつけてみることにした。ふとした動作で口に出してみる。
「あのストッパーの」
「そう、彼です。彼がいるから勝てるんですよね」
「そうですね」
 誰が彼氏なのかここでわかった。だがやはり彼女は気付いていなかった。
 そんな話をしながら埠頭を進む。そしてある艦の横にやって来た。
「この艦です」
「この艦ですか」
 言われて顔を上げる。見ればかなり大きい艦であった。
「またえらく大きいですね」
「最新鋭で。今自衛隊で最も新しい艦です」
「はあ」
 近年海上自衛隊では艦艇は大型化している。その結果としてこの艦もまた大型なのである。だが見ればここにはこの艦よりも大きな艦があった。
「まあイージス艦よりは小さいですが」
「イージス艦」
「あそこに停泊している艦です」
 彼女はそう言ってその大きな艦を指差した。見ればかなり独特のシルエットを持っている。
「あれがイージス艦ですか」
「ええ。やはりあれが護衛艦の中では最も大きいですね」
「そうなのですか」
「それでもこの艦は大きいでしょう」
「はい」
 彼はその言葉に頷いた。
「ちょっとこんな大きな船はそうそう見たことがありませんね」
「でしょうね。中も凄いですよ」
 どうも海上自衛隊にとっては自慢の艦であるらしい。語る言葉が説明口調でありしかも誇らしげであった。先程の恋と野球の話とはまた別の意味で乗っていた。
「ただ、守秘義務は守って下さいね」
「はい」
 彼はその言葉に頷いた。
「確かに捜査としてかなり細かい部分まで見てもらうことになるでしょうが」
「はい」
「そのことについて他言なさらないで下さい。宜しいですね」
「わかっています。これも契約ですからね」
 彼は応えた。
「決して口外はしませんので。御安心下さい」
 実は彼はそういう約束でこの仕事を引き受けたのである。
 自衛隊は国防上止むを得ない理由でそうした守秘義務がとりわけ多く存在する。とりわけ兵器である艦艇にはそれが顕著である。だからこそ契約の際こうした約束が為されたのである。
「では」
「はい」
 彼は頷いた。そして案内されてラッタルを登る。入口の舷門で挨拶を受けそのまま艦内に案内される。そして艦橋まで導かれたのであった。




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