第一章〜囚われの少女〜
第十六幕『魔術』
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まった黒という色は、何色であっても塗り替えることはできないのだ。
そんなエリオの姿を心配そうに見つめるレナ姫。そしてそれを安心したように見つめる、一人の騎士がいた。
(姫様、あんなに楽しそうにお芝居を観られて……)この青年はやや鈍感だが、姫に豊かな表情が戻ったことを心から喜んでいる。おそろしく単純な男なのだ。
舞台の時は進み、『ダークナイト』に対抗する存在として一人の聖なる騎士が立ち上がる。『ホーリーナイト』。これはエリオの微かに残っていた良心の表れだと、この演目の熱狂的なファンの間で一考として囁かれていた。
聖なる騎士は、その暗黒と化してしまった上空、邪悪な騎士と一騎打ちを繰り広げる。
黒い槍と白い槍。
それらは何度も火花を散らす。
ぶつかっては離れ、槍の先が互いの脳をかすめては通り過ぎる。
互いが互いをただ、滅ぼそうとする存在。
そしてそれ自体が互いの存在する理由となっていた。
国を恐怖の渦に陥れ、ただの暴徒と化した邪悪な騎士『エリオ』を止める方法は、もはやただ一つを残すのみ。
それは、ホーリーナイトの槍によって心臓を一突きにすることだ。
それができなければダークナイトは、更なる惨劇を起こす。
そして殺戮を繰り返すであろう。
もはやその死を持ってしか止めることはできなくなってしまったのだ。
ダークナイト――黒馬にまたがる暗黒の鎧の騎士。
それに対するホーリーナイトは、白馬にまたがる白銀の鎧の騎士。
その騎士は背中に聖女を乗せていた。
尼寺にいるその恰好をした聖女は、きらびやかな衣装を身に付けてこそいないが間違いなくジュリエッタなのだろう。
しかし、悪魔に心を奪われたエリオには、その姿は見えていない。
ジュリエッタはエリオに対し、何度も声を投げかけた。
「ああ、エリオ。
どうか聞いて。
あなたはエリオなのですね?」
兜と甲冑にその身の全てを蔽い尽された、男のその表情は少しもわからない。
それでもジュリエッタは言葉を投げかける。
「エリオ?
エリオ!
私の声が聞こえないの?」
ジュリエッタはひたすらエリオの名前を呼ぶ。
「私です!
ジュリエッタなのです!
あなたの事を愛するジュリエッタは、ここにいます!」
脳に憑りつく兜の、男のその表情は微塵も変わらない。
「私の愛しいエリオ。
あなたの事を想わなかった日はありません。
今でもこんなに、あなたの事を……愛しているのです!」
ジュリエッタは震えながらも、エリオに想いを伝える。
エリオを救いたい――昔のエリオに戻って欲しい。
その一心だった。
『私の事を思い出して』――意を決しジュリエッタはそこから身を投じた。
その瞬間にバランスを崩し、聖なる騎士も降下していった。
それをダークナイトはただ一進に
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