第十二話 〜両軍〜
[5/7]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
..はぁ』
私は再び一人になった部屋の中で溜息を零した。
『...というのが今回の全容でございます』
『...そうか』
私は重鎮達が居並ぶ広間の奥の玉座に腰を据える父に村襲撃の全容を述べた。
『...ふぅ』
それを聞いた父は空を仰ぎながら、その老体相応の一つ大きな溜息をついた。
私達はそれを静かに見届け次の言葉を待った。
『...何とも悲しい事じゃな』
そして父からそんな言葉が漏れた。
だが、ある一老人が日常で起きた出来事に溜息をついくそれとは全く違う、重臣達の居並ぶこの空間の奥で貫禄を漂わせながら王座に腰を据える人間の口から零れた言葉だ。
皆一様にそれの意味を理解していた。
そのせいか重臣達の間にも哀愁のような空気が流れていた。
皆その空気に酔いしれる。
『...して、奴宮の奴は何処におる?』
不意のその言葉に私は体を硬直させた。
だがそれは私だけじゃないだろう。
この広間に居並ぶ重鎮ら全員が体を強張らせただろう。
『国の大事だと言うのに奴は何処で油を売っておるのか』
まさか今後の方針より先に奴宮の件を突かれるとは。
だが、奴宮はここに居並ぶ重鎮達の中でも特に上席に居た人物だ。
当然と言えば当然なのだろうか。
父への報告の中では奴宮の死は伝えてはいない。
それどころか従軍についてすら触れてはいない。
理由としては一つに老体の父の身体を気遣っての事と、ただたんに
同じく老体の奴宮を従軍させ、更には前線に出した挙句に戦死させてしまった事を踏まえての事だ。
だが重鎮の中では既に防衛軍に奴宮が従軍していた事、そして敵将との一騎打ちの末に戦死した事は広まっていた。
勿論私も隠し通せるとは思ってはいないし、罪を免れようとは思っていなかった。
だが、国の方針すら決まらぬうちに父に倒れられでもしたら大変だと思っての事だった。
『奴宮は...』
私は意を固めぬままに口を開いた。
それを見て周りの視線が一気に私に集まる。
皆も不安なのだろう。
私が真実を今伝えるのか。
はたまた今はその真実を伏せるのか。
だが私は意を決した。
『奴宮は今回の防衛軍の従軍によって戦死しました』
一瞬で空気が凍る。
私は真実伝える事を選んだ。
きっと重鎮達は皆この事にさぞ肝を冷やしているに違いない。
だが、変に隠して後から死にましたではそれこそ父が可哀想だと思っての判断だ。
いや、父に対して失礼だと思ったからだ。
『...今なんと?』
父が聞き返してくる。
『奴宮は今回の防衛で勇敢にも敵将に挑み、そして戦死しました』
『...』
沈黙。
私は父の前で上奏の際に頭を垂れていたせいで父の表情は読み取れない。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ