彼の『ふつう』
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確かによくわからない人だった。そういえば、よく一緒にご飯を食べていたな。ところで、鈴は知り合いのか?」
「あたしは……一夏が昔言ってたの聞いただけだし、話聞くと『ふつう』の人っぽかったから、まさかあんな登場をするとは……」
「たしかに、『ふつう』ならば、あそこにはおりませんわね……」
「……細田蓮。教官、まさかその人はあのときのですか?」
ずっとつぶっていた目を開け、重々しくラウラは口を開いた。
「ああ、ラウラは面識があるな。蓮は気づいてないようだが。確かに、あいつは私がドイツにいた頃、一度ドイツ軍に来ていたな。幼馴染みに会う、というあいつにとっての『ふつう』の理由で」
「不法侵入でしたね」
「拘束された蓮を見たときは、殴りたくなったな」
その時のことを思いだし、遠い目をする千冬。
「クラリッサと話が合うようで、滞在中にとても仲良くなってました」
ラウラを除く、四人はますます細田蓮という人物について、わからなくなっていた。
そもそも、なぜ千冬は細田蓮について話し始めたのか。
それは、臨海学校一日目の午前、一夏たちがビーチバレーをしていたときまで時間は遡る。
一番最初を『それ』を見つけたのは、布仏本音だった。
「ねーねー、おりむー。あそこに釣りしてる人がいる〜」
手が出ていない、袖をブンブンと振り回しながら、本音は指差した。
『は?』
何を言っているのだろう、ま、今に始まったことではないか、そんなことを思いながら、一夏たちは彼女の示す方を見た。
そして、そこにいた。
浜辺にあぐらをかいて座り、竿をクイックイと動かし、口のはしからスルメが飛び出ている、半袖短パンの野球帽をかぶった男が。
ビーチバレーをしていた者は皆、唖然としている。関係者以外立ち入り禁止とかではなく、単純に男がそこにいることに。本音だけは、スルメおいしそうと考えていた。
「はぁ、なんも釣れねぇ。これなら、潮干狩りの方が良かったんじゃないか?」
その男は気づかない。周りがどうなっているのか。『ふつう』のことしか起こっていないとばかりに、周りを気にもとめない。
その男の正体を、一番に理解したのは一夏。
彼は知っている。その声、その顔、そのふつうペース。
「蓮兄!?」
その声で、男――蓮はやっと顔を上げ、一夏たちを見る。
「おー一夏か、久しぶりだな、元気にしてたか。俺はいつも通り『ふつう』だ」
「あ、久しぶ……じゃなくて! なんで蓮兄がここにいるんだよ!?」
質問した一夏だが、大方の予想はついていた。束だっていたのだ、蓮がいることだって、なんというか不思議ではない気がした。
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