彼の『ふつう』
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千冬は最初、そんな噂を気にもとめなかった。かなりの努力をすれば、できることだろうし、束のことをいつも見ていると、そんなことでは驚かなくなっていた。
そして、蓮にそのことを喋ったとき、
「あー、それ俺だ、俺。やったね!」
「なっ……!」
噂で驚かなかった千冬は、蓮の一言で驚いた。
「一体、どうやったんだ?」
「『ふつう』に勉強して、『ふつう』にテスト受けただけだよ。だって、束が言ってたじゃん。『ふつう』だって。満点採るのなんて、『ふつう』だって」
この言葉で、驚きを通り越し、千冬はどこか呆れにも似た感情が芽生えた。
呆れの表情で固まり、おそらく三秒ほど開ききっていた口を動かして、言った。
「馬鹿者め……。それが『ふつう』なのは、束だけだ。というか、なぜ今採れて、今までのはなんだったんだ」
「俺にもよくわかんねー。てか、テストの後、先生に呼び出されたんだよねー。『ふつう』にやっただけなのに」
何事も無かったように、『ふつう』に笑う。
「まぁ、千冬が『ふつう』じゃないって言うなら、『ふつう』じゃないんだろーな」
それから、蓮はまた平均点を採るようになった。ずっと、高校を卒業するまで……。
その時のことは、本当に蓮の言った通り、ただ『ふつう』にやっただけだろう。
それから千冬は、蓮の言う『ふつう』がについて考えるようになった。蓮にとっての『ふつう』とは何なのか。そもそも、蓮の『ふつう』は常識の範囲内の『ふつう』なのか。
そして、話の最後の締め括りも決まっている。
あいつの、『ふつう』の話はまだ色々あるがそれは別にいいだろう。
だが、これだけは覚えておけ。
あいつの、『ふつう』は誰にもわからない。どんな天才も、聖人君子だってわからない。それはそうだ。本人だって、わかってないんだから。
あいつは、『ふつう』に流される。他人の『ふつう』に流される。他人の『ふつう』も、自分の『ふつう』にしてしまう。
だからきっと、『ふつう』じゃないんだ。『ふつう』と思っているものほど、周りにとって『ふつう』ではない。
――それが、細田蓮だ。
「なんというか、すごい人ですね」
それが、千冬から蓮について聞かされた時の、シャルロットの感想だった。
他の一夏ラバーズの面々は、押し黙ったままだ。
細田蓮という人物がよくわからなさすぎて、何か言うことが思い付かない。そんな空気だった。だから、シャルロットの感想が、それこそ『ふつう』としか言えないものだったのだ。
「えと、箒はその……蓮さんと知り合いだったんだよね?」
やっと二人目、鈴が口を開いた。
「ああ。姉さんの幼馴染みとして、だったがな。
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