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占術師速水丈太郎  ローマの少女
第三十四章
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第三十四章

「さあ、おいでなさい吊るされた罪人よ」
 今度はカードから逆さに浮かぶ男が姿を現わした。
「そして貴方とは別の存在を今縛るのです」
 吊るし人はその手を広げて少女に向けると十本の指から鎖を放ってきた。それで少女の周りを取り囲んできた。
「くっ、この鎖は」
「無論只の鎖ではありません」
 速水は述べる。
「魔力を持った鎖ですよ」
「普通の魔力じゃ私は」
「ええ、わかっています」
 速水はそこも読んでいた。
「もう一枚ありますので」
「まさか」
「そのまさかです。さあ、隠者よ」
 続いて年老いた思慮深げな老人を出してきた。
「おいでなさい。そして彼女を」
 その深い目で少女を見る。そして杖を前に出し何かを出してきた。
「それは」
 見ればそれは青い稲妻であった。それが鎖にかかり走る。
「さあ、これならどうですか」
 速水は少女に対して問う。
「一つの魔法では効果が薄くとも複数の魔法なら」
「くっ」
「どうですか。効果はあると思いますが」
「考えたわね」
 少女の顔にはもう余裕がなかった。
「流石にここまでやるとは思わなかったわ。けれど」
「あら、速水さんだけではないわよ」
 もう一人いるのだ。アンジェレッタである。
「私もいることを。忘れないで欲しいわね」
「貴女は何をするつもりかしら」
「速水さんが鎖なら私は糸」
 彼女は言う。
「それを使わせてもらうわ」
 そう言うと両手を前に突き出してきた。そしてそこから黄金色の無数の糸を出してきた。まるで蜘蛛が糸を吐き出すかのように。
「糸ね」
「ええ。勿論唯の糸じゃないわ」
 宙を舞い少女に絡みつかんとする。
「この糸。果たしてかわせるかしら」
「そして鎖もまた」
 当然ながら速水もまだ鎖を仕掛けてきていた。
「あるのですよ。さあ、どうしますか?」
「そうね」
 少女はもう笑ってはいなかった。その顔にきついものが浮かんでいた。
「それじゃあ私も本気を出させてもらうわ」
「本気」
「では今までのはやはり」
「そうよ。セーブしていたわ」
 少女の身体が不気味な白い光に覆われた。今度はまた光を出してきたのだ。光といっても闇よりもどす黒く、邪悪なものを帯びたものであった。
「むっ」
 速水はその光を見た。それは瞬く間に鎖も糸も巻き込んでしまった。
 鎖も糸もその中に消えていく。まるで煙の様に。そして後には何もなかった。
「あまり美味しくはないわね」
 少女は消してからそう述べた。
「やはり影じゃないと」
「成程、そういうことですか」
 少女の言葉から影が消えていた原因がわかった。
「貴女はその光で影を」
「ええ」
 少女の方もそれに応えた。
「そうよ。これで頂いていたの」
「魂をですか」
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