六月 野心なき謀略(二)
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「宜しい、それでは後は高等係の担当者と仕事を始めてくれ、分室長」
同日 午前第九刻 皇州都護憲兵隊 長瀬門前分隊本部庁舎内監察課分室
分室長 馬堂豊久大尉
「午前第九刻をもって皇州都護憲兵隊長瀬門前分隊本部高等掛より岡田少尉以下六名。監察課 長瀬門前分室へ派遣となりました。分室長殿に敬礼!」
大路分隊長の発令書を分室長の執務机の上に置き、高等掛の掛附の岡田少尉――それでも馬堂大尉と同年代であるが――が部下たちと共に敬礼を奉げる。分室長となった豊久が答礼を返す。
「お疲れ様です。現時点で分室に送付された記録類には目を通しています。漏洩先の調査に関しては、現状のまま岡田少尉に一任したいと思います。必要な予算はこちらで用意しますので早急な絞り込みをお願いします」
「はい、分室長殿」
「私は省内――文書課側から情報を収集します。課内の実態を可能な限り把握するつもりです。明日の朝第八刻に一度会議を行い、情報のすり合わせを行いましょう」
衆民出身者で占められた高等掛では難しいだろう、と豊久は考えていた。
――根を張る前の外国の間諜相手や末端の軽挙妄動なら彼らでも十分なのだが、一端将家が絡むと彼らでは荷が重い。実務能力ではなく産まれや縁故の問題であるのだから性質が悪いな。
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「――さて、どうしたものかな」
高等掛の面々は既に皇都の街道を歩きながら監視先の事や、今日の新たな上官についての評価を行っているのだろう。
パタリ――と捜査記録の帳面を閉じると、馬堂豊久はため息をついた。
「平川にあまり負担をかけたくないんだがな―――長引かせる方が辛いと割り切るか」
鞄にそれを終い込むと本部庁舎を出る。
――さてさて出戻りだ。少なくとも課内の事情を洗うには三崎企画官や堂賀首席監察官の協力が必要になるだろう。 省内勤務の経験がないのだからしかたないのだが。
同日 午前第九刻半前 兵部省陸軍局庁舎前
兵部省人務部監察課 監察指導主査 馬堂豊久大尉
「ん?あれは――」
鉄路馬車――いわゆる乗合馬車から下りた豊久の目に大陸風の洋装をした初老の男とそれに付き従う官僚的な風貌の男達が飛び込んできた。
「誰だっけか……確かどっかで見たような――」
眉を顰めるが記憶の底から該当人物が浮かび上がる事はなかった。
「官僚か議員だろうが――この時期に陸軍局ってことは多分内務省のお偉方かな?
――広報で聞けばわかるか」
これまた高級な馬車に乗り込んで去って行ったのを見送り、肩を竦めた。
内務省の中でも警保局は特に陸軍との結びつきが強い。とはいっても主に衆民将校の転職先、特に憲兵将校・下士官の受け入れ先として最大の部署であるからであった。
そして、六芒郭に関係する
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