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占術師速水丈太郎  ローマの少女
第三十一章
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の街である。その美しさと醜さは並存しているのだ。そうした街なのである。長い歴史の間にそれ等を内包してきているのがローマなのだ。
「そのバランスが破滅へと至った時は」
「その時は」
「聖なる結界が全て失われた時です。あのサン=ピエトロ寺院ですらも」
「左様ですか」
「もっともあの寺院自体が腐敗と陰謀の根源であった時代も長かったのですがね」
 バチカンの方を見て困ったような笑みを浮かべた。
「ですがその時代においても聖なる結界は働いておりましたし今でも」
「幾ら何でも今のバチカンはかってよりは遥かに清潔で清く正しいです」
「あの時代が酷過ぎたのです。バチカンは長い過ちから抜け出たのです」
 無謬を犯さないとされているバチカンですら過ちを犯す。それが人というものなのである。
「ですから」
「破滅はありませんか」
「御安心下さい。少女一人や私達でどうにかなる街ではありません」
「それでは」
「ええ。気兼ねなく参りましょう」
 彼は述べた。
「それで宜しいですね」
「わかりました。それでは行く前に」
「何か」
「景気付けといきませんか。美酒と美食で」
「豪奢ですね」
「イタリアですよ。深刻になるのは似合いません」
 アンジェレッタはうっすらと笑ってそう述べた。


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