第三十二話 待っていたぞ、お前が来るのを
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と言っていたわ。余程嫌な思いをしたみたい。
「近日中に彼らは動くはずです、油断せずに事態に備えてください」
元帥閣下の指示に皆が頷いた。会議はそれで終わった。執務室に戻る閣下にちょっと話しかけてみた。
「三千万の兵力となると勝つのは簡単ではないと思いますが……」
閣下が頷いた。
「数が多いですからね、簡単ではありません。しかし難しくはない、所詮は烏合の衆です」
大言壮語に聞こえないのが凄い、この人が言うと本当にそうなんだと思える。
「問題は反乱軍でしょう、彼らが再度侵攻してくるようだと厄介です。こちらは専門家の集団ですからね」
「ですが捕虜を交換する事で合意が出来ているのではありませんか?」
そういう風に聞いているんだけれど違うのかしら。私の問い掛けに閣下が頷いた。
「合意は出来ています。しかし合意が守られるという保証は無い。大規模な内乱が起きればそれに付け込もうという動きは必ず出るでしょう。捕虜交換など時間稼ぎだ、実際に行われることは無い、そんな意見が出るはずです」
言われてみればそうね、無いとは言えない。
「では捕虜交換は無くなる可能性が有ると?」
「いえ、捕虜交換は行いますよ。例え同盟が約束を破っても」
思わず閣下を見た。視線に気付いたのだろう、閣下は私を見てフッと笑みを浮かべた。
「帝国は約束は守るという事でしょうか?」
「違います、約束を守った方が帝国に利が有るからです。無ければ守りません、守る必要は無い」
帝国に利が有る? 一体どんな利が……。
「いずれ分かります、いずれね」
意味深な言葉を吐いて閣下が口元に笑みを浮かべた。冷やかさが漂う笑みだ。何時も穏やかな表情を浮かべているけど最近は時折こんな笑みを浮かべる。多分冷笑なのだろうと思う。以前はあまり浮かべる事の無かった笑みだ。あの事件から浮かべるようになった……。
帝国暦 488年 3月 12日 オーディン アンネローゼ・ヴァレンシュタイン
窓の外がざわめいている。兵士が動く足音、大声。彼方此方をライトが照らし物々しい雰囲気が私達の館を包んでいる。夫は既に軍服に着替え窓の外をじっと見ていた。物々しい雰囲気の所為だろうか、黒のマントが何とも言えず禍々しく見えた。
「貴方……」
背後から声をかけると夫が振り返った。
「どうやら私を殺しに来たらしい。おそらくブラウンシュバイク公の手の者だろう、まあ誰が来たかは大体想像は付く」
殺しに来た? それなのに夫はまるで動揺していない。
「大丈夫なのですか?」
私が問い掛けると夫は軽く頷いた。
「心配はいらない。この館はミューゼル少将とキルヒアイス少佐が三千の兵で警備をしている」
「ラインハルトが……」
夫がまた頷いた、そして苦笑を浮かべた。
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