暁 〜小説投稿サイト〜
占術師速水丈太郎  ローマの少女
第二十二章
[2/2]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
「はい。それにしても」
「何か」
「これ程のものはそうは口にできませんが。パスタからアイスクリームまで」
「イタリアですから」
 アンジェレッタの言葉はそれだけであった。しかしそれだけで充分であった。
「食に関しては全てが完璧なのですよ」
「食がですか」
「それにお酒も」
「はい」
 速水はまたグラスを手に取った。そしてまたそこにあるワインを見やる。まるで彼を待っているかのようにその紅い輝きをたたえている。
「完璧なのですよ。イタリア人は芸術には完璧を求めるのです」
「芸術には?」
「そう、芸術には」
 彼女は語る。
「占術もまた然り」
「では私達は芸術家であると」
「私達だけではありませんよ」
 その目が速水の右目を見つめてきた。何かを探るように。
「といいますと」
「イタリア人は皆。そう、恋は芸術なのですから」
 そしてさらに述べた。
「今宵は。二人で芸術を語り合いませんか?」
「友は?」
「月夜です」
 紅に染まった頬で述べる。それは決して酒だけのものではなかった。
「紅の酒と甘い音楽もまた」
「幕は紫の空」
「赤や青の宝石達が私達を待っていますよ」
 夜の世界に誘ってきていた。二人だけの世界に。
「如何ですか?私はよいのですよ」
 両肘をテーブルの上につき、手の指を絡み合わせていた。その上に形のよい顎を乗せて彼に問うてきていたのだ。いささか芝居がかった身のこなしであった。


[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ