決勝戦〜中編〜
[3/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
アレスはゆっくりと手をコンソールに戻した。
眼前では、完全な鶴翼――V字型の陣形が完成していた。
+ + +
一瞬途絶えた戦火は、それに倍する勢いを持って再開された。
ヤン艦隊のそれぞれの両端がアレス艦隊を包囲するように広がっていく。
その先頭に向けて、攻撃を加えるのはアレス艦隊だ。
しかし、それでもわずかばかり速度を衰えさせただけである。
前後左右からの攻撃に、アレス艦隊は物理的に対応できず、次第に損害を拡大させていく。
後退する速度を速くして、包囲から逃れようと動く。
だが、それすらも想定のように相手からの攻撃は強くなっていく。
艦隊数が千二百を切る。
時間にしてわずか七分ほどであるが、縮小された時間であれば驚くほどの粘りだ。
観客席の生徒は唾を飲み、教官の中でも小さな称賛が聞こえる。
だが、それはあくまでも頑張ったとの過去形である。
既にアレス艦隊の半分ほどが包囲されており、結末は誰の目にも明らかであった。
「彼は頑張った。もう十分だろう――主砲、斉射三連」
アレスにとどめを刺そうと、ヤンの命令が小さく――しかし、はっきりと響いた。
しかし、それが実行に移されるわずかな時間。
その瞬間――ヤン艦隊の左翼が崩れた。
+ + +
何が起こったのか、理解できたのは観客席の教官でもわずか数名程度。
生徒だけであれば、ラップとアッテンボローなど数名だけであっただろう。
崩れた左翼を担当していた二学年の生徒は、何が起こったのか理解も出来ずに、大きく陣形を乱した。
それは防御施設Aからの、防衛射撃。
次第に後退していたアレス艦隊を包囲するように、大きく展開したヤン艦隊は、その左翼の一部を防御施設Aの攻撃範囲にまで引き込まれていたのだった。
その一瞬を見逃すことなく、アレスは陣形を変える。
それは敵艦隊を貫く鋒矢の陣形だ。
左翼の混乱に乗じて、食い破れば、鶴翼に広がった敵の中央は薄い。
ヤン艦隊を目指して、一つの矢が走りだした。
+ + +
正面に向かう矢に、ヤンは小さく称賛を言葉にする。
わずかな隙を見逃さない。
いや、それは彼にとっては最後の希望であったのだろう。
困難な状態からも諦めずに、一瞬のチャンスを作る。
まさに名将と言って良い器だ。
彼が進む未来に、歴史家としての心がわずかに動かされる。
おそらくこれからは彼も英雄としての道を進むだろう。
同じ時代に生まれて、その活躍を見て、分析が出来るのは実に幸運なことだろう。
崩れた左翼を一蹴しながら進み来る。
包囲のために離れた右翼では対応できない。
だからこそ、残念だ。
そんな名将に土をつけるこ
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ