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トワノクウ
トワノクウ
第二十二夜 禁断の知恵の実、ひとつ(五)
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り、ます……」

 自分より成績がいい同級生と自分を比べた時の劣等感。好きな人と楽しげに話す女子への凶暴な衝動。挙げればキリがない。
 ああ、あれからおぞましい生き物が生まれるなら納得もできる。

「でも、菖蒲先生、一つ変だと思うんです」
「何がです?」
「くうもやなこと考えますし、人を恨んだり妬んだりするから、その闇がどんなに汚いか分かります。でも、あんなもの(・・・・・)から妖が生まれたんなら、どうしてあの方達はあんなに奇麗なんですか?」

 人型の妖ほどもやをたくさん持っている。それなのに、梵天はひどく透明だし、露草はなまじの人間より健康的だ。あれが闇を成分にした生き物ならこれほどおかしなこともない。

「人と同じです。どんなに外見が美しくても腹の底ではおぞましいことを考えている人だって大勢いますよ。篠ノ女さんも今認めたでしょう? 貴女のように可愛らしい人でも中には闇を抱えているんです。視覚で捉えられるものがいかにあやふやか分かるでしょう」

 納得はいくが、くうはよけいに混乱した。欲しいのは抽象的な答でも比喩でもない。アルゴリズムから導かれる確かなアンサーだ。

「菖蒲先生! 妖って何なんですか!? いいんですか? 悪いんですかっ?」

 菖蒲は目を瞠るも、しばらく考えるようにしてからにこやかに答えた。

「分かりません」

 肩透かしを食らったくうはつい苦し紛れに。

「ず、ずるいですぅ!」
「はいはい。でも、その答を考えもせずに私に訊く篠ノ女さんは、ずるくないんですか?」

 くうは反論に困る。菖蒲はにこにこと笑っている。

「………………ずるいです」

 くうは帽子を下げて顔を隠した。

 悩んだり戸惑ったりしていると己がちゃんと物事を考えている気になりがちだ。くうはいつの間にかその穴にはまっていた。それらは思考ではない。

「ねえ篠ノ女さん、人間とは何だ? と問われて正しく答えられますか?」

 突然の質問にくうは答になりそうなものを探して口にする。

「か、からだの作り?」
「妖は高位のものほど人に近い。梵天や露草を見ても瞭然でしょう」
「し、神水やお経とか人は効きません」
「酸や菌では違いますよね。妖にとっての毒が人間にとってたまたま無害であるだけですよ」
「体力っ」
「陰陽寮の方々は妖並みの運動神経の持ち主ばかりですよ」
「寿命っ」
「全ての生物が定められた時間は違います。六十年生きる犬猫とか知らないでしょう? セミなんかは一週間ですし、逆に亀は百年単位で長生きします」
「食べ……るものは好みと体質の問題ですよね分かってますぅ〜〜!」

 くうはついに卓上に突っ伏した。

「分かってるんです。何もかもそれだけのこと(・・・・・・・)
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