§51 あとしまつのあとしまつ
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「……」
痛いほどの沈黙が、今この屋敷を支配していた。盆を囲むのは、一柱の神と二人の神殺し。覗いているのは、一人の神殺しが敵を蹂躙する様子。
「消え去れ」
水盆の中の黎斗が呟く。直後、失明するレベルの閃光。そして水盆が、割れた。
「―――――覗き見の術まで一緒に粉砕されたか」
須佐之男命の言葉が、静かな空間に溶けていく。護堂は語る術を持っていない。街を易々と破壊する自分たちの力なぞ、なんと傍迷惑なのだと思っていた。だが、これは何だ? 街の破壊? 都市の破壊? そんなものとは次元の違う一撃ではないか。いくらなんでもデタラメだ。
「……」
「何処へ行く? 異国の神殺し」
無言だったヴォバンが立ち上がり、外へ出る直前に呼び止められる。振り向く顔は非常に狂暴な笑み。
「――――感謝するぞ。あぁ、感謝するぞ極東の神よ」
彼の侯爵の髪を怪しい風が撫でる。
「過ぎ去る日々に厭いたのは、いつの日だったか。同族との殺し合いだけが生きがいとなったのはいつの日だったか」
ヴォバンの眼が突如、厳しくなる。
「今、私は非常に腹立たしい。日々を怠惰に、惰性で過ごしていたことに。同胞たる存在が、あのような領域に足を踏み込んでいるというに。私はどうだ。星の破壊どころか大陸の破壊すら出来はしない」
いや、しなくて良いだろ。護堂はその言葉を呑み込んだ。他の神殺しと違い自分は空気が読めるのだ。ここで自分の世界に入っているヴォバンの気分を害したところで得することなど何もない。そんなこんなで空気を読んで黙っていれば、ヴォバン侯爵の語りは続く。
「認めよう。水羽黎斗は、私の遥か上に居る。」
声が、震えている。それは恐怖などでは決してない。歓喜はもはや隠せていない。
「雑魚を消すのはつまらん。雑魚が群れれば余興としては愉しめよう。同胞と凌ぎを削るのは心が躍る。だが――」
外で、稲妻が落ちた。暴風が強くなっている。雨が強く屋根を叩く。ヴォバンの内なる昂揚が、屋敷の近辺まで嵐と雷を引き寄せる。
「格上のものに挑む、というのは実に久しぶりだ。これは私が神殺しになった時以来ではないか。この感情を、忘れていた」
それだけ言うと、踵を返す。もうこちらへ振り向くことは無い。
「いずれまた、私はヤツに挑む。万全のヤツを、叩き潰そう」
その言葉と共に、老侯爵の前に門が出現する。傍に死人が居る所をみると死せる従僕に転移術を使わせたようだ。
「我が厭いた日々はこの時をもって終わりだ。いくつもの死線を乗り越え、高みにたどりついた日にこそ、再び私はヤツに挑もう」
不吉な宣告を遺し、魔王は幽世から消え去った。
「……
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