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皇太子ルードヴィヒの肖像
黄金樹の跡
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にあったエリザベートと母に私費で援助を行い続けた。やがてグレゴールのこの行動はラインハルトの知るところとなり、彼は尋問を受ける身となったが、彼は堂々と旧主から受けた恩を主張して悪びれなかった。シュトライト少将や軍務省の官房長であったフェルナー准将も彼に叛意があってのことでないと弁護したため、量が僅少であったことも幸いしグレゴールは許され、のちエリザベートと母が恩赦を受ける布石ともなったのである。
 「父親といいシュトライトといい、なかなかどうして部下からの人望はあったようだな。一介の地方貴族ででもありさえすれば、あのような末路を辿ることはなかったのだろうか」
 晩年のラインハルトがそう呟いたことがあったという。
 その発言が真実かどうか、確かめる術はない。
 肖像画のラインハルトが蘇ってくることがあったとしても、答えることがあるであろうか。
 ともあれ、ブラウンシュバイク家の人々はアルフレット・ブルーノの「アルフレットらしい」「ブルーノらしい」精力的な活動を話題に談笑する平和を取り戻していた。
 「ルードヴィヒ殿下の足跡を訪ねて回っておるとか。いやはや奇特な、奇特な」
 「その話、聞きましたぞ聞きましたぞ。平民の学者のように大汗をかいて調べ回っておるとかおらぬとか」
 「若きことは羨ましきことじゃ。ほんに」
 エリザベートは扇で口許を覆うと、懐かしげに微笑んだ。
 幼いころに何度か会ったことのある伯父の姿が鮮やかに蘇る。
 春の光に包まれた、温かな日々の思い出とともに。
 春の光はやがて夏の光を、緑の森をそして泉の照り返しを、泉のほとりにくつろぐ二頭の獅子をも想起させたが、不快ではなかった。
 『なんと華やかな、華麗なひととき。何と華麗な者たちであったことか』
 幼き日のマルガレータ・フォン・ヘルクスハイマーがこの場にいたら恋仇の存在を察してむくれたかもしれぬ。
 そんな艶やかな陶酔から覚めると、エリザベートは家令に問うた。
 「その者、なんと申したか。巷で流行りの画家と知己だそうじゃな」
 「は」
 「会うてみたい。連れて参れ」
 そして、過去の領域から歯車は回り始めた。
 
 
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