第三章
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第三章
「ですから何もお気遣いなく」
「そうですか」
「そこまで仰るのですか」
「さあ、三人揃いましたし」
彼は恐縮する両親に対して今度はこう述べたのであった。
「御機嫌よう」
「お兄ちゃん、またね」
男の子が微笑んで彼に告げてきた。
「また会おうね」
「そう、また何処かで」
「それでね」
微笑みを返してきた彼に対してさらに言ってきた。
「お兄ちゃんお名前は?」
「名前ですか。私の」
「うん。何ていうの?」
ふと気付いた様な顔になった彼に問うてきたのである。
「お兄ちゃんのお名前。何ていうの?」
「速水です」
すっと笑っての言葉であった。涼しげで落ち着いた笑みである。
「速水丈太郎といいます」
「速水丈太郎さんっていうんだ」
「そうです。宜しければ覚えておいて下さい」
その微笑みと共にまた述べる速水だった。
「ではまた。縁があれば」
「うん、またね速水さん」
男の子は手を振って彼に最後の別れを告げた。そうして側に立っている彼の両親と共に月の中に消えるようにして姿を消していく。速水はその男の子とその家族を何時までも見送るのだった。その青い空に浮かぶ白い満月の光を正面から浴びながら。
「おや。いいことがあったのかい?」
「そう見えますか?」
「ああ、見えるね」
雑貨屋に見える。しかしそれにしては店の中がやけに薄暗くしかも売っているものはイモリの干物や人の形をした木の根に何か素性の知れない粉薬や松脂、後は何でも死海から採ってきたらしい塩や人のものと思われる手に髑髏、そうしたものばかり並べられている為真っ当な店でないのはわかる。その店に沈む様にして座っているやたらと長く垂れ下がった鼻を持つ老婆が自分の前に立っている速水に対して言ってきたのです。
「にこりとしてね。何かあったのかい?」
「何があったように見えますか?」
「あの女に告白が通ったということはないね」
老婆は目を細めさせて今自分が言ったその言葉をすぐに否定してみせた。
「あの女に限ってそれはね」
「そうなれば最高なのですが」
速水も微笑んでそれについてはこう述べるのだった。
「残念ですがそうではありません」
「そうじゃな。あの女は天性のたらしよ」
それだというのである。
「男もいいがむしろ女じゃな」
「その様ですね。特に最近は」
「女とばかり寝ておる」
こう言うのであった。
「好き者よ、相変わらずのう」
「ですから残念ですがそれではないのです」
あらためて老婆に告げる速水であった。
「それは言っておきます」
「ふむ。では何じゃ?」
「探し物を見つけられたのです」
その流麗な目を細めさせ形のいい唇を微かに上にさせての言葉である。
「それでなのですよ」
「ふむ。探し物をか
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