第百三十八話 羽柴の帰還その十二
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「何度も言うがな」
「いやいや、朽木殿のことはそれがしも聞きましたから」
「大丈夫だというか」
「少なくとも根は悪い方ではないかと」
「やれやれ、これでは話が終わらぬ」
林も溜息をつくばかりだった、だがだった。
彼等も何時までも話す訳にはいかずそれぞれ休んだ、そしてだった。
疲れが取れたところで岐阜に戻ることになった、だがここでだった。
小谷城から一人の者が出た、善住坊はこっそりと城を出る中で無明に対してこう言ったのである。
「では今からな」
「織田信長を、ですな」
「あ奴の行く道は一つしかない」
こう言うのだ。
「だから今からそこに入りな」
「撃ちますか」
「そうする、逃さぬ」
僧とは思えぬ鋭い目での言葉だ。
「今度こそ必ずな」
「では伊賀にも話をしておきますか」
「百地殿にか」
「石川殿達にも」
まだいた、話すべき相手は。
「お話しておきますか」
「そうじゃな、伊賀は我等の故郷の一つじゃしな」
「では、ですな」
「少し話をしておくか」
「ですな。しかし伊賀といってもまた違いますな」
「服部家じゃな」
ここでだ、善住坊も無明もその顔を曇らせた。
「あの家は伊賀といってもまた別だからな」
「我等の血は引いておりませぬ」
「闇の者達ではないわ」
彼等はだというのだ。
「まつろわぬ者達ではないからのう」
「大和の者達ですからな」
「忍といっても大抵そうじゃ」
影の世界に生きる彼等だがそれでもまつろわぬ者達ではないというのだ、忍といっても色々だというのだ。
「甲賀も風魔もな」
「ですな、織田家にいるのは甲賀者ですが」
「大和の者達よ」
その棟梁の滝川にしてもだというのだ。
「あ奴等もな」
「ですな、所詮は」
「同じ忍でも百地殿達とは違う」
忌々しげに言う。
「全くな」
「真の闇を知らぬが故に」
「影と闇は違う」
「影は影ですな」
「闇ではないわ」
こう言うのだった。
「だからじゃ、あの者達もな」
「やがては」
「そうじゃ、消す」
そうするというのだ。
「やがてはな」
「織田信長の後には」
「日輪なぞいらん」
信長を日輪と見ての言葉だ。
「この世にはな」
「必要なものは闇だけですな」
「我等だけよ」
まさにそれ以外はと、善住坊は無明に言うのだ。
「この国を今度こそ闇に包む為にも」20
「御願いします」
「ではな」
こう話してだった、善住坊は何処かへと姿を消した。信長が浅井朝倉と再戦の時を迎えるにはまだ厄介なことがあった。
第百三十八話 完
2013・5・24
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