第百三十八話 羽柴の帰還その十一
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「それがしから見てもあの御仁は」
「危ういというのじゃな」
「はい、伊達に悪弾正と呼ばれてはおりませぬ」
とにかく危険だというのだ。
「やはり早いうちに」
「除くべきと言うか、御主も」
「はい、それがしも権六殿と同じ考えです」
つまり織田家の殆どの者とだというのだ。
「何故兄上と慶次殿だけがそう仰るのか」
「そうじゃ、何故御主はあ奴を好いておる」
慶次には生駒が言う。
「どう考えても危ういであろう」
「いや、それがしが見ましても」
その慶次が笑って応える。
「あの御仁はさして悪い方ではありませぬ」
「いや、筋金入りの悪人であろう」
「どう見ても」
毛利と服部は実際にあの時信長を松永から何としても護ろうとしていた、それでこう言うのだ。
「朽木殿の時も御主だけが飄々としておったが」
「全く。何処をどう見ればあ奴が危険ではない」
「あれだけ危険な者はおらんぞ」
「まさに蠍じゃぞ」
「ううむ、そうしたものから出られた様な」
ここでこう言った慶次だった。
「そうした方だと思いますが」
「そうじゃ、わしもそう思う」
羽柴は慶次のその言葉に続いて言う。
「あの方はあの方なりに織田家に入ろうとしておられるのではないか」
「そうですな、そう思っておられるのでは」
「いや、それはない」
長年大和で彼と争ってきた筒井の言葉だ、筒井はそれこそ彼の謀なり戦なりをかなり受けてきているのだ。
それでだ、今も言うのだ。
「あ奴に限ってな」
「猿、御主と慶次だけはあ奴に何を見ておるのじゃ」
滝川も首を傾げて二人に問う。
「あ奴と宇喜多直家だけはすぐに斬らねばならぬぞ」
「それをどうしてそう言うか」
林も言う、彼にしても松永の周りを探らせていてそこから何としても除こうと考えているのである。
それでだ、こう言うのだ。
「まあ殿の器にはあ奴も入るのであろうがな」
「ははは、殿の器は何でも入りますからな」
羽柴は林の今の言葉に口を大きく開けて笑って応えた。
「あの御仁にしても」
「入っても腐ったものを入れてどうする」
何が腐ったものかも言うまでもない。
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